197 プナホウの泉(9.マノア谷に隠遁(いんとん)する)

(前回からの続き)

故郷のカアラに帰る

「山の霧(女の子)」 と 「ワアヒラの雨(男の子)」は、
それから、幼少時を過ごした故郷カアラに帰りました(*1)。


しばらくそこに滞在する中で、時折、コナフアヌイやマノア谷の上流を訪れたことでしょう。
今でもこれらの場所に行くと、彼らと偶然出会うかもしれません。

プナホウの泉が穢(けが)される

そして時にはプナホウを訪れました。
そこは、彼らが特別気にかけて、守ってあげた場所でした。

しかし、その土地と泉が外国人らの手に渡ると、
もはや彼らが、双子の子供たちに敬意を表することは、ありませんでした。

そして泉が穢されても、気にも留めませんでした。
-- 泉で汚れた物を洗濯したり、汚れた体で水浴する人がいても、止めようともしないのです。

マノア谷の一番奥に隠遁(いんとん)する

これを見かねた双子の子供たちは、腹を立て居たたまれずに、この地を去ってしまいました。
そして彼らはマノア谷の一番奥に、隠遁したのでした。


それ以来、彼らは時々、マノア谷からカアラやコナフアヌイに出かけます。
そんな時は、かつて住んでいたプナホウを、素早く通り過ぎます。

それでも時にはロッキー・ヒルなどに立ち寄り、しばらくの間、悲し気にその辺をウロウロするでしょう。

雨水池だったカナワイは、今では水がなくなり干上がっています。
神々のお気に入りだった2人が、若芽や葉を摘んで食べた草木も、今はもうありません。

そして、地元の古老たちはこう言うのです。

「あのむき出しの丘や平原を見たら、2人の優しい雨たち、つまり
ウアキオワオやウアワアヒラたちは、とても訪れたいとは思わないだろう(N.1)。

-- なぜって、あそこでは、食べ物なんか何も見つからないんだから。」

(終わり)
[目次へ戻る]

(ノート)
(N.1) ウアキオワオ(Uakiowao) と ウアワアヒラ(Uawaahila) :
ウアキオワオは双子の女の子(山の霧)、ウアワアヒラは男の子(ワアヒラの雨)の名前です。
2人の名前に付いた接頭語"Ua"は、「雨」を意味する語です。
お話しの始めの段階では、もう一つの接頭語"Ka(=定冠詞)"が付き、各々"Ka-uakiowao"、"Ka-uawaahila"と呼ばれていました。
2人の名前からこれらを除いた語幹は、雨を示す語です。
すなわち、女の子"Kiowao"は 風や霧を伴う冷たい山の雨(ヌウアヌ谷など)、そして、 男の子"Waahila"は ヌウアヌ谷やマノア谷に降る雨です(*2)。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅻ.The Punahou Spring. Mrs.E.M.Nakuina.
(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.