327 魚と迷信 (1. はじめに (2) 魚のカプ)

(前回からの続き)

クウラは魚の神

かつては、ある種の魚はタブーとされ、いついかなる時も捕まえることが出来ませんでした(*1)。
なぜなら、それらの魚はクウラのカプ、とされていたからです。

ここでいうクウラは、ハワイの水域の魚類を繁殖させた、魚の神様です。


浅海の魚のカプ

ハワイでは沿岸や浅海よりも、深海で漁をする方が一般的でした。

そして沿岸や浅海で漁をしようとすると、色々な規制が課せられました。
その土地のコノヒキや首長(アリイ)たちが、魚の種類と漁の時期の両面から制限したのです(N.1)。

この浅海のカプを示すサインは 「ハウの木の枝」で、その枝が海岸沿いに延々と並べられました。

人々はこのサインを見て、それを尊重し忠実に従いました。
そして万一それを破れば、たとえどんな違反であろうとも死刑だ、とかつては言われていました。


そこでこのカプの間は、人々は食料供給を深海の漁場に頼っていました。

カプが解除されてハウの枝が取り払われると、人々は思う存分に魚を捕りました。

但し、マカヒキ タブーの日だけは例外でした(N.2)。
その日は、たとえ一艘(いっそう)でも、カヌーを外に持ち出し水(/海)に浮かべることは、許されませんでした。

最初の一匹はクウラに奉納

漁師が、いや誰であろうとも、最初に捕まえた魚は特別で、クウラに奉納されました。

この奉納を行ってしまえば、クウラへ儀礼を尽くしたことになります。
ですからその後、さらに奉納する必要はありません。但し、特別な種類の魚は別ですが。

ハワイ島からニイハウ島に至るまで、全ての漁師たちがこの儀式を誠実に行いました(N.3)。

魚が沢山(たくさん)捕れた時、網で捕ろうが釣り上げようが、そしてまた貝を採った時も、同じことです。
先ほどお話ししたように、1種類の魚の中から1匹(ぴき)だけは、クウラへの奉納物として取っておきました。

そうすれば、残りの魚はどうしようが、人々の自由でした。


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1)コノヒキ(konohiki):
コノヒキは役職名で、アフプアアの支配者である首長(アリイ)により任命され、 農業や漁業の管理、および税の徴収などの責任者でした(*2)。
(N.2)マカヒキ(Makahiki):
マカヒキはかつてのハワイ最大のお祭りで、10月半ば頃に始まり約4ヶ月間続きました。この間は、スポーツや宗教的なお祭りが行なわれ、戦いは禁止でした(*2)。
(N.3)ハワイからニイハウまで(from Hawaii to Niihau):
ハワイ諸島主要8島のなかで、ハワイ島は最東端、ニイハウ島は最西端にあります。従ってハワイからニイハウまでとは、ハワイ諸島のほぼ全体を指しています。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 25. Fish Stories and Superstitions, Translated by M. K. Nakuina, p.269-274.
(*2) M. K. Pukui and S. H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.