332 魚と迷信 (4. ヒルの神話 (1) 魚の姿で旅に出る)

(前回からの続き)

はじめに

かつてヒルは人間の姿をしていた、と言われています(*1)(N.1)。
しかし、ある不思議な出来事により、その体が魚の形に変わってしまったのでした。

ヒルの祖先や原産地については、、何もわかっていません。
しかし、その物語は知られているので、以下にご紹介しましょう。

双子のヒルが生まれる

ヒル-ウラとヒル-ウリは、双子の子として生まれました。
1人は男の子、そしてもう1人は女の子でした。

彼らは人間の姿をしていましたが、魚の姿に変わることも出来ました。
その魚とは、現在、「ヒル」と言う名で知られる魚です。


ヒル-ウリが魚の姿で旅に出る

2人の子は一緒に育ちました。

それから時が流れて、女の子のヒル-ウリが大人になった時のことです。
彼女は何も言わずに、男の子と両親を残して、海の中に行ってしまいました。

そして魚の姿を取ると長い旅に出て、やがてコオラウポコのヘエイアに着きました(N.2)。

長い旅の間に、彼女はヒルの数を増やしていきました。

そのため、ヘエイアの近くに来た時までには、ヒルの群れはとても大きくなっていました。
そしてこの巨大な群れのために、ヘエイアの海は赤く染まってしまいました。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ヒル(hilu):
ヒルはサンゴ礁で見られる魚のうち、ベラ科(Labridae)カンムリベラ属(Coris)の複数種の総称(ハワイ語)です。その代表的な種の学名はCoris flavovittata、英名はblackstripe coris等 )です(*2)。
ただし、ヒルの中にはベラ科ではなく、ゴンベ科(Cirrhitidae)ホシゴンベ属(Paracirrhites)の魚もいます。それがヒル ピリコア(Hilu piliko'a)で、その学名はParacirrhites forsteri、英名はblackside hawkfish、そして和名はホシゴンベです。


(N.2) コオラウポコ(Koolaupoko)、ヘエイア(Heeia):
かつてコオラウ山脈の東側は南北2つの区域(モク(moku))に分けられ、南半分はコオラウポコと呼ばれていました。
ヘエイアはその中にあったアフプアア(ahupua'a)の1つで、南隣にはカネオヘ(Kaneohe)があり、さらにその南にはカイルア(Kailua)がありました。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 25. Fish Stories and Superstitions, Translated by M. K. Nakuina, p.269-274.
(*2) M. Titcomb et al.(1951): Native Use of Fish in Hawaii. Supplement to the Journal of the Polynesian Society, Memoir No.29, Vol.60, 1951, p.69.