333 魚と迷信 (4. ヒルの神話 (2) ヒル-ウリの黒い帯)

(前回からの続き)

大漁に沸(わ)く






これを見たヘエイアとカネオヘの人々は、カヌーを漕(こ)いで沖へ出ました(*1)。
するとその赤色の正体は、これまで見たことも聞いたことも無い、魚でした。

魚網(ぎょもう)を取りに岸に戻ると、彼らはその群れを網で囲いました。
ところが引き込んだ魚が多過ぎて、カヌーの中では扱い切れませんでした。

そのうえ魚の数は、どんどん増えていきました。
最初の群れを網で囲い岸に引きずり上げると、休む間も無く次の群れが姿を現わす、と言った具合でした。

そしてとうとう人々は、際限なく押し寄せる群れに、うんざりしてしまいました。
それでもまだ魚たちはぐるぐる回りながら、その辺りに留まり続けたのでした。

人々は、ハワイ人が知るあらゆる方法で、その魚を食べました。
-- 生(なま)で、ラワルで、塩漬けにして、さらには、加熱した石の上で焼いて(N.1)。

ヒル-ウリの黒い帯状模様

このようにコオラウの人々が、魚を捕ったりご馳走を食べたりしている間に、
ヒル-ウラ、双子の男の子、は人間の姿をして彼らの中にやって来ました。

そして加熱した石の上で、ヒル-ウリが焼かれているのを見た時、彼は気付いたのでした(N.2)。
「これは、私の姉妹が魚に変身した時の姿、そのものだ。」

彼は怒り心頭に発して、旋風(つむじかぜ)に姿を変えました。
そして、ヒルがいる家という家の全てに乗り込み、その魚を一匹残らず吹き飛ばして、海へ帰してしまいました。

その時以来、ヒル-ウリは黒ずんだ鱗(うろこ)を持っているのです。
そして、このことはハワイのどの島でもよく知られています。



(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ラワル(lawalu)、加熱した石の上で焼く(broil over a fire of coals):
この2つは共に魚を焼く調理法です。前者のラワルでは、魚を木の葉(ティーリーフなど)で包んで焼くのに対して、後者では、魚をそのまま直火にかけて焼きます。
(N.2) ヒル-ウリ(hilu-uli):
「ヒル-ウリ」はハワイ語の合成語で、前半の"hilu" はベラ科の複数種の魚の総称、また後半の "uli" は「暗い色」を示す形容詞です。従って、両者を合成した "hilu-uli"は 「暗い色をしたヒル」を示す普通名詞です。
そして、この普通名詞の最初の文字"h"を 大文字"H"に変えて固有名詞にした "Hilu-uli" が、双子の女の子の名前です。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 25. Fish Stories and Superstitions, Translated by M. K. Nakuina, p.269-274.