340 旧約聖書の歴史に似た伝説 (6. 楽園を飾り立てる木々)

(前回からの続き)

楽園を飾り立てる木々

「ポリネシア人の楽園、すなわちカラナ-イ-ハウ-オラは、色々な物で飾り立てられていました(*1)(*2)。
それらの中には、楽園に生育した木々もありました。

例えばウル カプ ア カネ、すなわち、カネを崇拝する人々がタブーとしたパンの木、です(N.1)。

そしてまたオヒア ヘモレレ、すなわち、聖なるリンゴの木、がありました(N.2)。


チャントの中のクムホヌア

かつての神官たちは、こう考えていたと言われています。

『これらの木に実を結ぶタブーの果物は、きっと何らかの形で、あの苦しみと死 と関連がある(N.3)。
そうだ。 クムホヌアとラロホヌア、すなわち、最初の人と最初の女性、に課された あの苦しみと死 だ。』

ですから、その昔のチャントの中では、『クムホヌア』はこんなふうに呼ばれていました。
カネ-ラア-ウリ、クム-ウリ、クル-イポ、

楽園から追放された首長、
その木のために追放された者、

もしくは、同じような意味の名前。」


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ウル(ulu):
ウルはこの植物のハワイ語名で、対応する和名がパンの木です。その英名は breadfruit、学名は Artocarpus altilisです。
かつてのハワイアンにとってウルの実は重要な食材で、主食ポイを作る時の材料として、タロの代わりに使われることもありました(*3)。
(N.2) オヒア・ヘモレレ(ohia hemolele):
オヒア・ヘモレレはハワイ語で、オヒアとヘモレレから成る合成語です。前半部分オヒアは名詞で、2つの異なる植物 「オヒア・アイ(ohia 'ai)」と「オヒア・レフア(ohia lehua)」を指す語です(*4)。また後半部分ヘモレレは形容詞で、「聖なる」を意味します。
本文におけるこの語の前半部分オヒアは、文意から 「オヒア・アイ」を指していると考えられます。その英名はmountain apple、学名はEugenia malaccensis(=(同義語)Syzygium malaccense)です。
(N.3) あの苦しみと死(the trouble and death):
アダムとイヴは、エデンの園で神に背いたため、楽園から追放されました(*5)。キリスト教では、この時彼らが犯した罪が全人類に受け継がれているとし、これを原罪と呼ぶことがあります。
この原罪に対する罰として、人間の男には労働の苦役、女には出産の苦しみが課され、かつ人間は必ず死ぬようになりました。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 1. Legends Resemblng Old Testament History. By C. M. Hyde, p.15-30.
(*2) Abraham Fornander(1878): An Account of The Polynesian Race, its orgin and migrations and --, Vol.1. p.79.
(*3) David Malo(1898): Hawaiian Antiquities, translated by N.B.Emerson, Honolulu Hawaiian Gazette. Chap.14.
(*4) M. K. Pukui, S. H. Elbert(1986): Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.
(*5) 旧約聖書,創世記第3章,16-19,23.