372 ロノプハ(9.ミル王の死)

(前回からの続き)

神官(ロノプハ)が再び警告する

それから時が流れて、もはや王の死は、取るに足らぬ事になりました(イ メア オレ)。
そして王が元のように元気になった時、神官は警告をやめることなく、こう言いました。

「貴方はこの死から逃れることが出来ました。
しかし貴方にはまだ、もう一つの死が残っています。」

サーフィンの季節がやって来た

ミルが最近の重篤(じゅうとく)状態から回復に向かって、恐らく数週間後のことでした。
ワイピオでは波が大変高くなり、浜辺で激しく砕けていました。

当然のことですが、人々はこれを見て大変興奮して大騒ぎになりました。
と言うのも無数のサーファーたちが、サーフ・ボードに乗って砂浜を目指すだろうからです。

絶え間なく歓声が聞こえて来ました。
この浮かれた大騒ぎのために、ミルは神官に課された抑制にも、耐えられなくなってしまいました。
そこでミルは神官の賢明な忠告をよそに、あの気分爽快なスポーツに仲間入りしたのでした。


ミルがサーフィンで死ぬ

彼はサーフ・ボードを引っ掴(つか)むと、少し離れているが良い波がある、選ばれたスポットまで泳いで行きました。

そこで彼は1番目と2番目のうねり波を、見過ごしました。
しかし好機を伺(うかが)いながら、より大きな3番目の波の正(まさ)に峰を捕らえ、その勢いに乗ってスタートしました。

彼はボードの後部にいて、堂々と素早く波に乗りました。
そして、人々の喝采と歓声の中を、見事に砂浜に着地しました。

それから彼はこの冒険を幾度も繰り返し、首尾よく波に乗っていました。

ところがある時、波が砕けて波乗りが終わる砂浜で、気が緩んだその瞬間のことです。

彼はぐいっと強く下方に押されると、突然、姿を消してしまいました。
一方、サーフ・ボードは水中から飛び出して、荒々しく岸辺に叩(たた)きつけられました。

人々はびっくり仰天しながら、この光景を見守りました。

そして激しく叫びました。
「ああ! ミルが死んだ! ミルが死んでしまった!」

彼らは驚き悲しみながら、王の遺体を見つけようと、注意深く捜しましたが無駄でした。 

これが、神官の警告に幾度となく従わなかった結末でした。

(終わり)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅵ. Lonopuha; or Origin of the art of Healing in Hawaii. Translated by Thos. G. Thrum, p.51-57.