375 聖なる地を訪ねる(3.不思議な話が始まる)

(前回からの続き)

彼女の体を揉(も)みほぐす

年老いた母は両手を上げて、両眼で天を見上げました(*1)。
そして茶褐色でしわくちゃの顔に、喜び溢(あふ)れる信心深い表情を浮かべて、こう叫びました。

「神々が、娘を私の元にお戻し下さった!
きっと、娘を強く愛しているに違いない!」

彼女の母、夫、そして友達たちが周りに集まって、彼女の両手足を揉(も)みほぐしました。
さらに、彼女を心地良くさせようと思い、出来ることは何でもして上げました。


すると彼女は数分後には意識を取り戻し、こんな事まで言うようになりました。
「不思議なことがあるのです。それを、あなた方にお話ししたいのです。」

不思議な話しが始まる

それから数日後、彼女に体力がついて、もっとたくさん話せるようになりました。
そこで親戚や友人たちを呼び集めると、彼女はこの世のものとは思えない、不思議な話しをし始めました。

「あなた方がご存知のように、私は死んだのです。

私は自分の体から離れてその横に立ち、私の体を見下ろしていたようです。

その私、すなわちそこに立っていた私の体は、私がじっと見ていたものの、ただの外見に過ぎなかったようでした。
私は生きていて、もう1人の私は死んでいたのでした。

数分の間、私はじっと自分の体を見つめていました。
それから向きを変えると、私はそこから立ち去りました。

(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅶ. A Visit to the Spirit Land, or, The Strange Experience of woman in Kona, Hawaii. Mrs. E.N. Harly, p.58-62.