106 民話 ヒクとカウェル(2.フアラライの山頂に住む)

(前回からの続き)

フアラライの山頂に住む

その昔、ハワイ島フアラライ山の山頂近くに、洞窟がありました(*1)。


その洞窟は尾根の南面にあり、その中には母ヒナと息子ヒクが住んでいました。
ヒクは、神と人間の間に生まれた半神(はんしん)で、ハワイではクプアと呼ばれる存在でした。

ヒクは、幼い時から若者に成長するまで、ずーっと母と2人だけで、この山頂に住んでいました。
そして、眼下に広がる平原に下りることは、1回たりとも許されませんでした。

そのため、人間たちが住む家を見たり、生き様(ざま)を知ることも出来なかったのです。

浮かれ騒ぐ平原が気になる

彼の耳はとても鋭く、はるか彼方の平原から聞こえて来る音も、逃しませんでした。
そうです。彼は、フラの楽器の音や、陽気に浮かれ騒ぐ人々の声も、しっかりと捕えたのです。

そんな時の彼は、しばしば平原のココナツ林の様子を想像しました。
そして、踊ったり歌ったりする人々の美しい姿を、この目で見たいと思ったものでした。


しかし、彼よりも長く生きて来た母は、世の中というものを、より深く知っていました。
そのため、息子が平原に下りることは、決して許しませんでした。

(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson.