107 民話 ヒクとカウェル(3.山頂から平原をめざす)

(前回からの続き)

平原に行きたい!


それから時が流れて、今やヒクは「自分は十分に成長した。」と感じるようになりました(*1)。
そして、山の下から賑やかな笑い声が聞こえた時、彼は再び母に頼みました。

「1人で平原に行かせて下さい。そして、海辺の人々に交じってお話をさせて下さい。」

これを聞いた母は、息子の意志がとても固いことを知りました。
「もはや止められない」と感じた彼女は、やむなくヒクが平原に行くことを許しました。

そして、出かける前の彼に、母はこう忠告しました。
「あまり長居するんじゃないよ。早めに戻ってくるんだよ。」

不思議な力を持つ矢 プア・ネ

こうしてヒクは、山頂から平原に向けて出発したのです。

彼の手にはいつも持ち歩いていた、あの矢がありました。
彼の忠実な矢、プア・ネ(Pua Ne)です。

この矢は、ちょうどお守り札のようで、不思議な力を持っていました。

例えば、彼がこの矢を呼ぶと、矢は彼に答えることが出来るのです。
また、旅をしながらこの矢を放つと、矢は大空を飛びながら、彼を正しい方向に導いてくれます。

平原をめざして山を下りる

ヒクは、山頂近くのデコボコした溶岩の上を下りて行きました。
それから、山の南西斜面を覆(おお)う、コアの林を通り抜けました。


とうとう彼は、フアラライの山頂から山の下までやって来たのです。

(次回に続く)
[目次へ戻る]

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson.