111 民話 ヒクとカウェル(7.カウェルの深い愛)

(前回からの続き)

心を奪われたカウェル

カウェルがこっそり隠した矢を、ヒクはいとも容易に見つけてしまいました(*1)。
このヒクの快挙に、彼女はすっかり参ってしまいました。

それだけではありません。
この青年の並外れた気品と美貌が、彼女の心を完全に奪ってしまったのです。

やがて彼女は彼への強い愛情に、取り憑(つ)かれてしまいました。
そして、彼を自分の夫にしよう、と心に決めたのです。

ヒクを家に閉じ込める

カウェルはあの手この手で、巧みにヒクを自分の家に引き留めました。
しかしそれは、いつまでも続くはずもありません。

そして、いよいよ彼が山に向けて出発しようとした時、
彼女は力ずくで、彼を家の中に閉じ込めてしまったのです。


屋根裏から逃げ出す

閉じ込められた彼の心に、母の言葉が思い浮かびました。
 「あまり長居するんじゃないよ。」

そこで彼はとうとう、この家から逃げ出そう、と決心しました。

家の中を見渡した彼は、その屋根裏に這(は)い上がりました。
かつてハワイでは屋根を葺(ふ)くのに、日本の茅に似た草ピリを使いました(*2)。


彼はそのピリを少しだけ取り除いて、屋根に小さな穴を開けました。
そしてその隙間(すきま)を通りぬけ、こっそりと家の外に逃げ出したのです。

(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson.
(*2) ピリ(Pili)はハワイ語の名称です. 日本名は赤髭茅(アカヒゲガヤ)、学名は"Heteropogon contortus"です.