117 民話 ヒクとカウェル(13.ロミロミと生命の息吹) 

(前回からの続き)

海の果てを出発したカヌーは、一路ハワイ島をめざして大海原を進みました。
こうして、ヒクと友達たちは「カウェルの(霊)魂」を携え、ホルアロアの岸辺に帰って来ました。


カウェルの前にひざまずく

カヌーから下りたヒクは、彼女の魂を抱きかかえると、すぐさまカウェルの家に向かいました。

そこには今も、愛する彼女が横たわっています。
-- 魂が抜け出した後の肉体だけが。

彼は、その横にそっとひざまずきました。
そして、左足の先の親指に穴を開けたのです。

戸惑う魂を肉体に戻す

それから、死者の世界から連れ戻した、彼女の魂を取り出しました。
そして四苦八苦しながらも、戸惑う魂を無理やり、穴の中に押し込んでしまいました。

それでも、魂は必死にもがき続けています。
すると彼は、穴の開いた親指の傷口に、包帯を巻きつけました。

彼女の魂は、もはや逃げ出すことも出来ません。
冷たくて気持ちが悪い肉体に、完全に閉じ込められてしまったのです。

ロミロミが生命の息吹をもたらす

ヒクはロミロミと呼ばれる方法で、彼女の体をマッサージしました。
それは古くからハワイに伝わるもので、体を擦(さす)ったり揉(も)んだりします。

まずは足の指先からはじめて、上へ上へと魂を押し上げて行きます。
そして魂が心臓まで来た時、血液が再び彼女の体を、少しずつ循環しはじめました。

それから肺がゆっくり膨らみはじめ、生命の息吹とも言える、呼吸が始まりました。
そしてしばらくすると、彼女の魂は驚いたように、2つの目を通してじっと、体の外を見つめたのです。


(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ.Hiku and Kawelu, J.S.Emerson.