135 民話 カハラオプナ(17.人々が一部始終を知る)

(前回からの続き)

守護神フクロウの悪戦苦闘

カハラオプナがコアの大木の根元に埋められると、また、彼女の忠実な守護神であるフクロウが現れました(*1)。
彼は彼女を救い出すため、彼女を覆っている土を削り取ろうとしました。

ところが、地中にはびこる大小の木の根が、彼の爪に絡(から)み付いてきます。
カウヒが彼女の死体を埋める時、根を切り払わぬよう注意して、残しておいたからです。

彼が爪でひっかけばひっかくほど、ますます根が絡み付くのです。

彼女の救出をあきらめる

そのため爪は傷付いてガタガタになり、羽はくしゃくしゃになってしまいました。
そして遂に、彼は彼女を救うことを、あきらめざるを得なくなったのです。

また一方では、彼は恐らく 「こうして彼女を救っても無駄だろう。」と思ったのでしょう。
と言うのは、彼女は自分が生き返ると、必ずカウヒに知らせるでしょうから。

こうして守護神のフクロウは、ワイキキに戻るカウヒの後を追うように、立ち去ったのでした。

守護神エレパイオが両親のもとに飛ぶ

ところが、このカウヒの残虐な行為を見ていたのは、フクロウだけではありませんでした。
そうです、カハラオプナにはもう一つの守護神が付き添っていたのです【解説1】。


それは「エレパイオ」という小さな茶色の鳥でした【解説2】。
フクロウがカハラオプナの救出をあきらめたと知ると、エレパイオは直ぐさま行動を開始しました。

彼は、彼女の両親(カハウカニとカウアクアヒネ)のもとに、一直線に飛んだのです(*2)。
そして、彼が見てきた出来事の一部始終を、彼らに話しました。

両親たちは心配していなかった

彼らは、カハラオプナがいないのを、ずーっと寂しく思っていました。
しかし召使いの何人かは、婚約者カウヒが彼女を訪ねて来たことを、知っていました。
そして、2人が一緒に家から出るのを見ていたのです。

そこで彼らは 「2人は隣の森を散歩しているのだろう。」 と想像していました。
ですからそれまでは、特に心配することもありませんでした。

エレバイオの話に驚愕する

ところが、この小さい鳥が話した内容は、とても信じられない恐ろしいものでした。
しかもその話は明確で、疑いようも無かったのでした。

「そんな残虐な罪を犯すとは、とても正気の沙汰とは思えない。」
と、彼らは口々に言い合いました。

「しかも、あの愛らしく純真な彼女を殺すとは!
それだけじゃない。彼女は許嫁(いいなずけ)で、完全に彼のものだと言うのに。」

(次回に続く)
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【解説1】守護神のエレパイオ
エレパイオ('elepaio)はフクロウ(owl)と同様に、鳥の姿をしてこの世に現われる守護神(または家族神)です。
ハワイでは一般に、動植物や静物の姿でこの世に現われる守護神を、アウマクア('aumakua)と呼びます。
なお、原文ではフクロウを "a god, and a relative of Kahalaopuna"、また、エレパイオは "a cousin to Kahalaopuna" と解説しています。

【解説2】動物のエレパイオ
エレパイオはハワイで大変人気がある小鳥です。その姿はふっくらと丸く、とても人なつっこい鳥だそうです。
早朝から夕方まで大きな声で鳴き続けるさえずりが、エレパイオ(e-le-PAI-o)と聞こえると言われています。


原文ではエレパイオ(Elepaio)の学名を "Chasiempis sandwichensis"としていますが、厳密には "Chasiempis ibidis"です。

エレパイオはハワイの固有種で、カウアイ・オアフ・ハワイの3島に生息しますが、島ごとに種が異なります。
"Chasiempis sandwichensis"はハワイ島に生息し、オアフ島に生息するのは"Chasiempis ibidis"です。

また原文では色は「緑」としていますが、一般的には 「上面は茶色、下面は白色。」などと言われます。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina.
(*2) カハウカニとカウアクアヒネは、カハラオプナの両親です。 詳細は、本ブログの「121 神話 カハラオプナ(T.マノアの風と雨)」を参照下さい。