137 民話 カハラオプナ(19.策略を練る)

(前回からの続き)

カウヒに幾度も殺されたカハラオプナは、こうして再びあの美しい姿に戻りました。
そして、土の中から彼女を救い出した若者は、「彼女を花嫁にしたい!」と願うようになりました(*1)。

カハラオプナの心は変わらない

ところが彼女はそれを、こう言って断ったのです。

「カウヒが生きている限り、私は彼のものです。
他の誰のものでも無いのです。

なぜって私の体は、彼がくれた食物のお陰で大きくなったのです。
ですから食物が彼のものだったように、私の体も彼のものなのです。」

カウヒを死に追いやれ!

それを知った若者の兄は、弟に忠告しました。
「何とかしてカウヒを消すんだ!」

それから彼らは、密かにカハラオプナの両親と話し合いました。
そして彼女が生き返ったことを、秘密にしておくことにしたのです。

カハラオプナの歌を覚える

若者はまず始めに、カハラオプナのメレ(歌)を1つずつ練習して行きました(*2)。
-- あの恐ろしい死に向かう旅のなかで、彼女が愛するカウヒに向けて歌ったメレの全てを。

そして、彼女のメレをきちんと歌えるようになると、今度はキル・ハウスを探しにかかりました【解説1】。

そこは、王様や王族たちがゲームを楽しむための家です。
「カウヒはきっとそこに来る。」と、若者は信じていたのです。

(次回に続く)
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【解説1】キルはハワイで大人気だった
キル・ハウスとは、キル(kilu) と呼ばれるゲームをする家のことです(*3)。
このゲームを楽しめるのは王族(alii)だけです。

一方、本文によるとカウヒの社会的階級は"chief"です。
通常、英語の"chief"は ハワイ語の"alii "を指すので、彼はゲームに参加できます。

このゲームは厳格な規則に守られており、秩序を乱したり騒いだりすることは許されません。

各プレイヤーは、ゲームを始める前にメレを歌います。
本文中で若者がメレを練習したのは、この時に歌おうと考えたからです。

歌い終わると、いよいよプレー開始です。

お目当ての相手(異性)の前に立つピンをめがけて、キルを滑らせます。
ここで言うキルは、縦割りのココナッツ・シェルです。


うまく相手のピンに当たれば、その人とキスをする、というのがこのゲームです。



(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina.
(*2) メレ(mele)は、「歌」を意味するハワイ語で、その内容は娯楽的なものから宗教的なものまでありす。
(*3) David Malo(1898): Hawaiian Antiquities, translated by N.B.Emerson, Honolulu Hawaiian Gazette.