146 民話 カハラオプナ(28.幸せな2年の果てに)

(前回からの続き)

幸せなカハラオプナ

それから約2年の間、カハラオプナは夫と一緒に幸せに暮らしました(*1)。

一方、彼女の叔父アカアカは、ある時、カウヒがサメに姿を変えたことを知りました。
さらに彼は、カウヒの執念深い性格にも気付いていました。

そこで、叔父はカハラオプナに厳しく命令しました。
「いいか、たとえどんな事があっても、絶対に海に入るんじゃないぞ!」

しばらくの間、彼女はこの警告を覚えており、注意を払っていました。


ところがある日、彼の夫が男の使用人たちを全部引き連れ、出かけてしまいました。
彼らは、大切な食物カロ(タロ)の手入れをするため、マノアに向かったのです(*2)。

こうして彼女は、女の使用人たちと共に、家に取り残されてしまいました。

サーフィンの誘惑

彼女が海を眺めると、その日の波はサーフィンにちょうど良さそうでした(N.1)。


見ると何人もの若い女性たちが、波乗りを楽しんでいます。
彼女の心は踊り、彼女らと一緒に楽しみたい、と思う気持ちでいっぱいでした。 

もはや彼女の頭の中からは、叔父の厳しい警告もすっかり消え失せていました。
そして母が眠りにつくや否や、彼女は召使いの1人を連れ、こっそりと家を抜け出したのです。

それから海辺でサーフ・ボードに乗ると、すぐさま沖に向けて漕(こ)ぎ始めました。

サメになったカウヒに襲われる

さあ、サメになったカウヒには絶好のチャンスです。
彼女がサンゴ礁の外側に出て、かなり沖まで来た時のことです。

サメのカウヒは彼女の体に咬(か)みつくと、真っ二つに咬み切ってしまったのです。
それから上半身をくわえると、水面上に高く掲げました。

咬み切られた彼女を、全てのサーファーに見せるためです。
カウヒは遂に復讐(ふくしゅう)を果たしたことを、人々にアピールしたかったのです。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) サーフィン :
かつてのハワイでは、サーフィンは最もエキサイティングなスポーツの一つでした(*3)。
厳しい階級社会の中で、王様や王族から普通の人に至るまで、幅広く人気がありました。
そして男も女も、また、あらゆる年齢層の人たちが、サーフィンを楽しみました。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales,Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina.
(*2) カロ(kalo)は、かつてのハワイの主食ポイ(poi)の材料です。他のポリメシア諸国ではタロ、英語でも"taro"です。また、日本語名はサトイモ、学名は"Colocasia esculenta"です。
(*3) David Malo(1898): Hawaiian Antiquities, translated by N.B.Emerson, Honolulu Hawaiian Gazette.