156 民話 カアラとカアイアリイ(8.二人の出会い)

(前回からの続き)

そよ風がカアラのスカートを揺らす

あの「甘い香りの女」 カアラは、まさか自分がつらいめに遭おうとは、思いもしませんでした(*1)。

彼女は、パーウーと呼ばれるスカートを巻いていました。
腰から垂れ下るラーイーの長い葉は、緑の剣を束ねたように見えます(N.1)。

遊び心からそよ風が音を立てて、緑の葉をひらひらさせました。
すると、その葉がねじれたり揺れたりするたびに、彼女の柔らかく成熟した体が見え隠れしました。

カアイアリイの心を奪う

その彼女の魅力が、そこにいたある男の目を引き、夢中にさせてしまいました。
彼は、大王に仕える多くの勇者たちの中の1人でした。

そうです。彼女に心を奪われたこの男こそが、若き勇敢な戦士・カアイアリイでした。

血塗られた戦場の勇者

カアイアリイは、かつて、ラナイ島最後の血塗られた戦場、マウナレイで果敢に戦った勇者でした。

筋骨たくましい腕で、彼は長い槍を巧みに操(あやつ)りました。
そして逃げ惑(まど)う敵を、あの恐ろしい断崖の天辺(てっぺん)に追い込んだのです。

逃げ場を失った戦士たちは、パニック状態から必死の叫びを上げるも、全く相手にされません。
彼は大声で戦士たちを怒鳴りつけながら、断崖の端へとじわじわ追い詰めました。

そして遂に、彼らは怯(おび)えた羊(ひつじ)のように、深く暗い谷に飛び込んで行ったのです。
彼らの死体は断崖壁にぶつかり引き裂かれながら落下し、同時に、たくさんのとがった石がまき散らされました。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ラーイー (la-I or lāʻī):
ラーイーとは、英語でティー(Ti)と呼ばれる植物のハワイ語名で、キー(kī)とも呼ばれます。


本ブログ「154」で、「木の葉を重ねて腰に巻いたスカート、パーウー」とありますが、その「木」とは「ラーイー」の木を指しています。

学名は"Cordyline fruticosa"ですが、原文では"Dracaena"("Cordyline"の異名(シノニム))を学名としています。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.