157 民話 カアラとカアイアリイ(9.カアラは決闘で勝ち取れ!)

(前回からの続き)

勇猛なカアイアリイ

カアイアリイは、多くの虐殺者と同じように、見かけはハンサムでした(*1)。
しかしその心はライオンのように勇猛で、その肌はライオンのような黄褐色でした(N.1)。

浅黒く気品のある顔が、カールした眉毛(まゆげ)の下で輝いています。

小さくて力強い彼の手は、ある時は敵の喉(のど)を締めつけ、またある時は、愛する人を優しく撫(な)でました。
また彼の目は、時には憎しみの炎で燃え盛り、時には愛の炎で満ち溢(あふ)れるのでした。

カアラへの激しい愛

そして今はカアラへの激情が、英雄の顔に一気に血を上らせ、赤く燃えさせたのです。

カアイアリイは大王に申し出ました。

「ハワイの全ての島々を治める大王様!
どうか、この甘い花(甘い香りの女・カアラ)を、私にお授(さず)け下さい。

大王様はあの谷を私の領土に加えて下さいました。
しかし私は、それよりもむしろ彼女を頂きたいのです。」

カアラは決闘で勝ち取れ!

カメハメハ大王は答えて言いました。

「このラナイ島に咲くジャスミンを、お前に与えたコハラの谷に植えるが良い(N.2)。

だがカアラを欲しいと言う者は、お前だけでなくもう一人いる。
頑強なボーン・ブレイカーで体に傷跡がある、マイロウと言う男だ(N.3) 。

とは言え、マウナレイで果敢に戦った我が槍の達人よ、何も恐れることは無い。
お前はマイロウと格闘するのだ。

この格闘に勝ち、彼女を両腕に抱きしめた者が、彼女を自分の家に連れて行くのだ。
そして、2人は1枚のカパ布に入ればいい。」

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ライオンのように勇猛な心(lion's heart):
原文では、カアイアリイを「その心はライオンのように勇猛(with the lion's heart)」としています。
この"lion's heart"は、獅子心王(Lionheart)と称されたイングランド王・リチャード1世(12世紀末)、を想起させます。
在位期間10年の大半を戦争と冒険に明け暮れた彼は、その勇猛さから騎士の模範と讃えられました。


(N.2) コハラ(Kohala):
コハラは、ハワイ島北西部にある1地区(旧呼称:モク(moku))の名称です。
かつてのモクは、山頂から海岸に至る山の稜線に囲まれた、多数の谷に分割されていました。
それがアフプアア(ahupua`a)で、ハワイにおける土地支配の最小単位でした。
本文で言う「コハラの谷」とは、コハラにある1つの谷、すなわち1つのアフプアアのことです。


(N.3) ボーン・ブレイカー(bone-breaker):
ハワイにはルア(Lua)と呼ばれる伝統的格闘技があります。
その代表的な技が骨折(bone breaking)、相手の骨を折ることです。
原文中の"bone-breaker"は、当人がこの技の名手だったことを示します。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.