158 民話 カアラとカアイアリイ(10.カアラを襲う恐怖と愛)

(前回からの続き)

カアラを襲う恐怖

可愛そうにあの乙女・カアラは、「狂暴なパワー」という無神経な贈り物を、突き付けられました。
そのうえ、あの恐ろしい「ボーン・ブレーカー」と言う名まで聞いたのです。

驚いた彼女は両手を組んで握り締めると、不安そうにその手を上げました。
「ボーン・ブレーカー」については、こわい噂を聞いていたからです。

彼はこれまで、何人もの女性たちを手にかけているのです。
それも彼女のように、可愛らしく咲き誇る乙女たちを!

彼は彼女たちの口を吸っては、息が出来ないようにしたのです。
そして力尽きた乙女たちを、憎しみもあらわに踏みつぶしました。

あげくの果てに、海に住むサメたちに向けて、その乙女たちを放り投げたのでした。

カアイアリイを愛す

ラナイ島の乙女・カアラが愛したのは、ハワイ島の若き首長でした。

確かに彼は、彼女が住む島の人々を槍で突き刺しました。
しかし彼女を傷つけたのは、彼の目から放たれる優しい視線だけでした。

彼と向き合った彼女は、狂暴で素早くて若い恋人を見つめました。
そして、こう言いました。

「 おお、カアイアリイよ!

どうか私の心を、しっかりとつかんで下さい。
ちょうど戦場の敵を、槍で強く突き刺すように!

そして処女を食い物にする、あの血なまぐさい男から、私を救って下さい。
そうすれば私は毎日あなたのために、イカを捕まえてはカパを叩(たた)くでしょう(N.1)。」

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) カパ (kapa):
「カパを叩く」とは、カパ布を作るために樹皮をたたいて伸ばすことです(*2)。
かつてのハワイでは、あらゆる衣類はカパ布を加工して作られました。


そのためカパを叩く作業は、女性の最も重要な仕事の一つでした。
そして、たたき棒から出る音は、当時の社会では誰もが知るお馴染みの音でした。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.
(*2) Ralph S. Kuykendall(1938): The Hawaiian Kingdom, Vol.1, University of Hawaii Press.