159 民話 カアラとカアイアリイ(11.決闘が始まる)

(前回からの続き)

大王がコウの木の日陰に座る

決闘の時が、刻一刻と近づいて来ました(*1)。

大王は、おい茂った葉が日影を作る、コウの木の下に座りました(N.1) 。


かつてコウの木は、王族たちが涼むための、日陰を生む「高貴な木」でした。
しかし、王族たちが姿を消すと共に、この木も見られなくなりました。

2人の勇者がにらみ合う

貝を敷き詰めた滑らかな床の上には、ハラのマットが敷かれています(N.2)。

そしてマットの上には、すでに2人の勇者が立っています。
彼らの手足はむき出しで、身に着けているのはマロと呼ばれる、ふんどしだけです(N.3)。

彼らの心は強い欲望と血に飢えて、怒り狂っています。

熱い嫌悪の眼差しが、相手の顔面を鋭く撃ち抜きました。
今にもその首に向けて両腕を伸ばし、絞め殺しそうな恐ろしさです。

殴り合いが始まる

2人が向き合って立つと、彼らの幅広い胸が青銅色に輝きました。
と、次の瞬間、その胸をめがけて重い握り拳(こぶし)が放たれ、殴り合いが始まりました。

時折、2人が顔を向き合わすと、互いににやりと笑いながらも、
秘められた殺意に顔をしかめては、相手を睨(にら)みつけるのでした。

相手を威嚇する

右足を前に出し右腕を高くかざして、戦いを一時休止すると、
互いに気勢を上げて相手を威嚇(いかく)しました。

そして彼らが経験した戦いの凄まじさを、得意げに話したのでした。

-- 如何に残虐に相手を傷つけ引き裂き、そして殺したかを。
さらには、その肉を獣(けもの)たちに喰わせたことを。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) コウ (Kou):
大きな卵型の葉がこんもりと茂るので、木の周囲に日陰が出来ることで知られています。
かつては日陰を作る木として、海岸付近や家の周りに植えられました。

(N.2) ハラ (hala):
ハラの葉はラウハラ(lauhala)と呼ばれ、これを編んでマットが作られました。
その他にも、屋根葺き材料として使ったり、籠や帽子を作ったりもされました。


ハラ (hala)はハワイ語名で、学名は "Pandanus tectorius"です。

(N.3) マロ (malo):
マロはハワイ語で、日本語で言う「ふんどし」のことです。
かつてのハワイでは、このマロが男性の通常の装いでした。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.