162 民話 カアラとカアイアリイ(14.父の怒りと決意)

(前回からの続き)

カアラの父が嘆く

カアラが連れ去られるのを、この島の1人の男がじっと見ていました。
たくましそうですが、髪はすでに灰色になった彼は、声を張り上げて泣きながら訴えました。

「ああ、我が子カアラが行ってしまった。
私が漁に出かけて、槍(やり)でオフアを突いて疲れた時、一体誰が私の手足を癒(いや)してくれるのだ?(N.1)


もしも娘を手放してしまったら、誰が私にタロやパンの実を食べさせてくれるのだ?
まるで、オロワルの首長のようだ(N.2)。

そうだ、娘をあのカアイアリイに奪われぬよう、こっそり隠すしかない。
さもないと、私は死んでしまう。」

カアラの父オプヌイは、このように嘆いたのでした。

父オプヌイの怒りと決意

ところがその後、激しい憎しみの感情が、オプヌイの心をかき立てました。

マウナレイの戦いでは、彼の友達が崖から追い落とされたのです。
そして彼自身も、あの凶暴な殺人鬼に服従し、媚(こ)びへつらいながら生きて来たのです。

しかし彼は今度もまた、殺人鬼を嫌悪する自分の気持ちを、隠すことにしました。
そうすることで彼の娘を救おう、そして殺人鬼の手下の望みを絶ってやろう、と考えたのです。

オプヌイは心の中でこう言いました。

「娘を海の中に隠そう。
そして誰にも分からないようにするのだ。
-- あの、永遠に音を立てて砕け続ける波が、一体どこで、カアラの上に押し寄せているのかを。

それを知るのは、魚の神々と私だけなのだ。」

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) オフア(ohua):
オフアとは、ヒナレア(hīnālea), フムフム(humuhumu), ウフ(uhu)など、色々な魚の「稚魚」を意味するハワイ語です。
そして、上記の魚の中でも特に人気があるフムフム(学名:Rhinecanthus rectangulus)は、2006年にハワイ州の魚に指定されました(*2)。


(N.2) オロワル(Olowalu):
オロワルとは、このお話しの舞台(ラナイ島)のすぐ東隣、マウイ島にあるアフプアア(ahupua'a)の名前です。
かつては、タロ(taro)とパンの実(breadfruit)の産地として知られていました。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.
(*2) Hawaii Gov.(2006): Hawaii State Legislature 2006 Legislative Session, HB1982 HD2 SD1.