163 民話 カアラとカアイアリイ(15.母の危篤を知る)

(前回からの続き)

愛の芽生えに輝くカアラ

さあ朝です。まだ幼(おさな)さが残るカアラの頬(ほお)は、血色(けっしょく)の良い茶色です。
その顔は愛の芽生えに輝き、興奮で赤みがさしています。

彼女が立っているのは、首長カアイアリイの小屋の入口です。
太陽の光を受けると、彼女の顔はより一層輝き、キラキラ光っていました。

母の危篤を告げる父

その時、粗末な身なりをした父親が出て来て、こう言いました。

「我が子カアラよ、今、お前の母はマハナで、亡くなろうとしている(N.1)。

首長よ、そして、あなたの愛するカアラよ!
私はあなた方に、心の底からお願いしたいのです。

カアラよ! お前が首長のカヌーに乗り、彼の偉大な地(ハワイ島コハラ)に行ってしまう前に、
もう一度だけ、お前の母に会ってやってくれ。」

母を見舞おうとするカアラ

「ああ、悲しいかな!」と優しいカアラが言いました。
「一体いつから、お母さま(カラ二)は病気なのですか?

私がお母さまに、この大きくて美味しい魚を届けましょう。
-- 私の首長(カアイアリイ)が槍で突いて捕ったこの魚を。

そして私が愛をこめて、お母さまの手足をマッサージしましょう。
そうすればお母さまは、きっともう一度元気になるでしょう。

カアイアリイに許しを請う

大丈夫!
私の首長はきっと、私が行くのを許してくれるでしょう。

違いますか? おお、カアイアリイよ。
最期に抱きしめてあげたいのです、どうか母のもとに行かせて下さい。

-- お月さまがあの湾を2回渡り終えるまでに、必ず私は戻って来ますから(N.2)。」

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) マハナ(Mahana):
マハナは、ラナイ島北部にあるアフプアア(行政区画)の名称。カアラが住む島の南西部(カウノル村)から見ると、マハナは島の反対側です。


(N.2) あの湾を2回渡る:
「2晩が過ぎる」ことを、情緒豊かに表現したものです。
目前に広がる湾に毎夜月が映り、その動きが、あたかも湾を渡るように見えたのでしょう。この場合、月は一晩に1回湾を渡るので、2回渡り終えるとは、2晩が過ぎることを示します。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.