164 民話 カアラとカアイアリイ(16.行きなさい、愛するカアラよ!)

(前回からの続き)

カアイアリイがカアラを抱きしめる

英雄カアイアリイは若き恋人カアラを、たくましい片腕でしっかりと抱きしめました(*1)。
そして、彼女の目をじっと見つめながら、優しく額(ひたい)を撫(な)でて、輝く髪の毛をはらいました。

彼にとって、今や彼女は生命の源とも言える存在です。
その彼女に、彼はおもむろに話しかけました。

カアイアリイの心が揺れる

「おお、私の愛しい人よ、あなた無しでは一体、どうして生きて行けようか?
たとえ、太陽が東から出て西に沈むまでの、今日一日間だけでも、とても生きていけない。

あなたは、私の生きる力なのです。
もしもあなたがいなければ、私は海辺に打ち上げられた魚のように、息を切らし死んでしまうでしょう。

いや、違う! 
私に、そんな風に言わせないでくれ。

私、カアイアリイは首長だ。
そして、これまで多くの人やサメと戦って来たのだ。

だから絶対に、女の子みたいなことを、言ってはいけないのだ。

母を見捨てられようか?

私も、自分の母を愛している。
母は私の故郷コハラの谷で、私を待っている。

それを考えれば、あなたの母の気持ちを無視するなど、とても出来ない。
あなたの母は最後にもう一度、あなたの愛らしい顔と優しい姿を見たいに違いない。

それだけではない。
あなたに食べ物を与え育ててくれた母は、今や私の母でもあるのだ。

行きなさい、愛するカアラよ!

行きなさい、私のカアラよ!

あなたの首長である私は、ここであなたを見守っていよう。
あなたが私の腕の中に再び戻るまで、あなたの愛をひたすら待ち望みながら。」

(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.