167 民話 カアラとカアイアリイ(19.母は海辺で待っている)

(前回からの続き)

彼を想いながら歩くカアラ

父親は沈黙したまま、そして、その子カアラは涙を流して歩いていました(*1)。
まもなくすると、緑豊かで丸みを帯びた、パラワイ盆地にやって来ました。

小径(こみち)を歩くときの彼女は、いつも花を摘んでいました。
しかし今は摘まないように、気をつけています。

その代わり、「この小路を帰る時に、どこで立ち止まろうか?」 と思い悩んでいました。
この花で花輪を編んで、愛するご主人の首につけてあげたかったからです。

このように無邪気な想いを抱きながら、恋する哀れな乙女(おとめ)は、不機嫌そうな父オプヌイに付いて旅を続けたのでした。


この道ではお母さんに会えない

やがて、彼らはカルルとカモクの林を通りぬけました。
そこで男は急にマハナに通じる小径から外れ、再び海の方角に向かい始めました。

すると、口をつぐんでいた哀れな子カアラが、薄気味の悪い父を見上げました。
そして、その顔をのぞき込みながら、こう言いました。

「おや? お父さん。
この道を行ったらお母さんに会えず、その反対に、道に迷ってしまいそう。
もう一度、海の方に行ってしまうわ。」

母は海辺で待っている

すると、カアラの父は答えました。
「お母さんは海辺にいるんだよ。そう、カウマラパウ湾の近くだ。


そこで、岩場に張り付いた笠貝(カサガイ)を集めているんだ。
お前のために、大きなイカも干(ほ)してある。

また、タロイモをつぶしてポイを作り、ヒョウタン容器にいっぱい入れてある。
それを、もう一度、お前に食べさせてくれるだろう。

彼女は病気なんかじゃない。
しかし、もしあの時『彼女は健康だ』と言ったら、お前のご主人は、お前をここに来させなかっただろう。

そして今、お前は母と一緒に、海辺で眠りにつくところなのだ。」

(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.