169 民話 カアラとカアイアリイ(21.荒れ狂う淵)

(前回からの続き)

荒れ狂う淵(ふち)へ

こう話し終えると、怒りに燃えた父は、娘カアラの手をひっつかみました(*1)。
そして、彼女が涙にむせびながら泣き叫ぶのも無視して、強引に岩だらけの海辺を進んで行きました。

やがて彼らは、湾の東側のある所までやって来ました。
見れば足元の岩が幾つも、荒波に打たれて揺れ動いています。

そうです、ここにあるのが荒れ狂う深い淵です(N.1)。


その浸食された空洞の中で、海水が泡立ちうめき声を上げています。
そして噴き出し穴からは、海水が力強く噴き出し、水しぶきをまき散らしています。

一方、この淵の入口は、干潮位よりもさらに深い所にあります。

襲いかかる大波

ほら、大きな波がやって来ます。
強い南風が、あの大波をこの海辺まで送り込んで来るのです。

海辺に近づいた大波は、砕けて白くなった峰を立ち上げます。

そして、強大で素早く突き進む、怒りに満ちた緑色の海水大塊となって、
この淵の入口に襲いかかるのです。


轟音(ごうおん)と海水の噴出

入口から流入した大量の海水は、中に空気を封じ込めて圧縮します。

すると次の瞬間には、その空気が反発して膨張します。
そして背後の海水を押し返しながら、轟音と共に穴の外に飛び出すのです。

それと同時に、膨大な量の海水が大空に向けて噴き出します。
そして上空で緩やかな銀色の水しぶきとなって、曲線を描いて落ちて来ます。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 「荒れ狂う深い淵(boiling gulf)」:
波の浸食により出来た地形で、一般的には「潮吹き穴(blowhole)」と呼ばれています。
ハワイでは、オアフ島のハロナ、カウアイ島のポイプなどが有名です。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.