170 民話 カアラとカアイアリイ(22.海の洞窟に入る)

(前回からの続き)

おびえ泣き叫ぶカアラ

カアラはおびえて、どう猛な父の膝にしがみつきました(*1)。

「ここはイヤ! お願い、お父様。」
彼女はすすり泣いたと思うと、今度は大声で泣いていました。

「穴の中には、きっとウミヘビ(ウツボ)が棲んでいるわ(N.1)。
そして私に咬(か)みついて、引き裂いてしまうわ。

私が苦しんでいると、今度はカニが忍び寄って来て、
すすり泣く私の両目をつつき出してしまうわ。

ああ! お父様。
いっそのこと、私をサメに食べさせて下さい。

そうすれば、私の叫び声やうめき声も聞こえないので、
お父様が傷つくこともないでしょう。」

潮吹き穴に飛び込む

オプヌイは筋骨たくましい片腕で、すらっとした少女(カアラ)をしっかりと抱えました。
そして大きく1度ジャンプすると、泡立ち浸食された穴の中に飛び込みました。

それから彼は、イルカのようになめらかに海中に潜って行きました。

海中の洞窟に入る

そして彼の自由な片腕で、海水を後ろに蹴り出して、海底に沿って移動しました。
しばらくすると、ギザギザした洞窟の入口に入って行きました。

彼は鍛え上げた筋力を生かして、潮の流れに逆らって泳ぎ、
遂(つい)に、日が当たらない洞窟内の暗い岸辺に着きました。


洞窟の入口は海面下

立ち上がって振り向くと、洞窟の入口は海面より下にありました。

中は広々とし乾燥しています。
高い天井からは、塩のツララが垂れ下っています(N.2)。

2人の足元では、緑色の透き通った波が、引いたり押し寄せたりしています。
そしてその度に、彼らの茶色い顔に、恐ろしいほど白くまばゆい光を反射させるのでした。


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ウミヘビ(ウツボ):
原文では"sea snake(the puhi)"と記されています。前半が英語で後半(カッコ内)はハワイ語ですが、ここでは両方を日本語で表記しました。
なお、少し後の文に "eel "(=ウナギ目) が出てきますが、それも「ウツボ」を指すと思われます。
「ウツボ」は、ハワイではアウマクア(守護神/家族神)の一つとされています。

(N.2) 塩のツララ(salt-icicled ):
このお話しの舞台カウノル村のすぐ隣は、ケアリア(Kealia)地区(アフプアア)です。
"Kealia" と言う名は、そこに塩の堆積層があったことを暗示しています(*2)。
ここで言う「塩のツララ」は、その塩が洞窟内に溶け出して、ツララ状に固まったものと思われます。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.
(*2) Lobbin Andrews,(reviced by Henry H. Parker)(1922): A Dictionary of the Hawaiian Language,Published by the Board, Honolulu,Hawaii.