171 民話 カアラとカアイアリイ(23.恐怖の洞窟内)

(前回からの続き)

恐ろしい動物たち

洞窟内の湿っぽい石からは、しずくが垂れています。

そこには動物の死骸を食べ、スカベンジャーと呼ばれるカニたちがいます。
彼らは石の上を素早く這い回って、姿を消してしまいました。


そして今度はウツボ。
あの忌まわしく今にも咬みつきそうな魚です。

あごを大きく広げて、口の中の鋭い歯を見せています。
ゆっくりと頭を伸ばしながら、今にも彼女の柔らかな足に咬みつき、引きちぎってしまいそうです。

その彼が頭を持ち上げている穴こそが、恐ろしい隠れ家。
恐れ多い海の神の住み家なのです。

カアラがへたり込む

かわいそうに少女カアラは、この薄暗い岸辺にへたり込んでしまいました。
そして、カナカである父の膝にしがみつきながら、こう叫びました(N.1)。

「ああ、お父様。
どうか私の脳を、このギザギザした石で叩(たた)きつぶして下さい。

あのウツボが怖いんです。
私の首に巻き付かないよう、私を守って下さい。

ほら、ぬるぬるして薄気味悪いウツボが、忍び寄って来るわ。
私が死ぬまでは、絶対に私の体を這(は)い回らせないで。

ああ、今度はカニだわ!
私が息絶える前に私を引き裂き、肉をもぎ取ってしまうわ。」

救いの道はある

「良く聞くんだ。」
と、父オプヌイが言いました。

「私と一緒に、暖かくて日の当たる所に戻してあげよう。

もう一度、あの甘い香りの花が咲き誇る、パラワイ谷を歩くんだ。
香り高いジャスミンで花輪を作って、自分の首にかけるんだ。

それには、私と一緒にオロワルの首長の家に行かないとだめだ。

そこで、お前の血生臭いご主人(カアイアリイ)に見せつけるんだ。
--お前がオロワルの首長に抱かれて愛を交わすところを。


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) カナカ(kanaka):
有史以前、ポリネシア人が太平洋を渡って、ハワイに住み着きました。彼らはハワイの先住民族で、カナカ(または、カナカ・マオリなど)と呼ばれています。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.