172 民話 カアラとカアイアリイ(24.カアラを残し父が去る)

(前回からの続き)

カアラの愛は死よりも強い

「絶対にだめ!」
カアイアリイを愛するカアラが叫びました。

「私には、あの首長との愛しかないの。 
彼以外に愛せる人なんて、絶対に現われないわ。

彼にもたれかかり彼の胸に頭を預けることなど、もう2度と出来ないと言うならば、
その頭をこの冷たい石の上に置いて、死んでしまいましょう。

そして、彼の腕が私を引き寄せることも、もう2度と無いのなら、
私の首にウツボを巻き付かせ、私の頬(ほほ)を引き裂かせて下さい。

その方がずーっとましだから。
私の愛するお方の前で、よその人に私の顔を触らせるなんて、絶対にいやです。」

父オプヌイの心が決まる

「よしわかった。 ウツボでも友達にしていればいい。」
と、オプヌイは叫びました。

そして、両膝にしがみ付く娘の柔らかい両腕を、荒々しく振り放しながら、こう続けました。

「しばらくすれば、オロワルの首長がお前を捕まえに来るだろう。
そして、マウイ島の丘にある彼の家に連れて行くだろう。

お前はここで待つんだ

この洞窟から抜け出そうなんて考えるな。

わかっているだろうが、ここの水路は流れが速く、弱々しい腕で泳ぎ切るのは無理だ。
泳ごうとすればギザギザした岩にぶつかって、お前の体が切り裂かれてしまうぞ。

すぐお前を呼びに来させるから、それまでここにいるんだ、そして生きるんだ。」

そう言うと彼は、泡立つ深い淵(ふち)に素早く飛び込み、両腕で力強く水を掻き続けました。
そして間もなくすると、彼はもとの岸辺まで戻って来たのでした。

(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.