173 民話 カアラとカアイアリイ(25.彼女の行方を問いただす)

(前回からの続き)

断崖上で彼女を待つ

彼女の姿が谷の中に消えてから、ずっと後のことです。

カアイアリイが断崖上に立ち、丘の斜面の小道を見上げています。
愛するカアラが去って行ったあの小道です。

その夜、彼はマットで少し寝た後、海辺を散歩していました。

そして夜明けにはここにやって来て、再びあの断崖に登ったのでした。
丘を下って来る彼女を、一刻も早く見つけようとしたのです。

現われたのはウアだった

目をこらすと、遠くに風でなびく木の葉のスカートが見えます。
彼の胸は、可愛い彼女を抱き締めようと、ドキドキしてきました。

しかし、カールした眉(まゆ)毛が近づくにつれ、彼の心は沈んだのでした。
それは愛する彼女ではなくて、彼女の友達のウア(雨)だったのです(N.1)。

しかもウアの表情を見ると、何やら悲しい知らせがあるようでした。

なぜカアラは戻らないんだ

首長カアイアリイは、恋の悩みに打ちひしがれていました。
しかしうら若い女性使者を前にした彼は、直ぐ必死の眼差しで挨拶を交わしました。

そしてこう叫びました。
「なぜカアラは、この谷にまだ戻らないのだ?

ひょっとして、彼女が別の男の首に花輪を巻いたのですか?
万一そんなことがあれば、私がそれをぶっ壊しましょう。

そうでなければ、イノシシにでも咬(か)まれたのですか?

それとも、人を呪(のろ)い殺すアナアナが、彼女の心臓を殴りつぶした、とでも言うのですか?(N.2)
そして彼女の体は冷たくなって、マハナの芝生上に横たわっているのですか?

とにかく速く話してくれ、ウアよ!
君の話しを想像するだけで私は恐ろしくなり、今にも死にそうなんだ。」

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ウア(Ua):
ここでのウアは女性の名前ですが、ハワイ語としての意味は「雨」です。
ハワイには雨を示す言葉がたくさんありますが、その中の一つ、ハワイ島ヒロに降る霧雨を示す語、カニレフア(Kani-lehua)も有名です。


(N.2) 呪術(じゅじゅつ)者のアナアナ(anaana prayer):
かつてハワイには、カフナ(kahuna)と呼ばれる専門家が何人もいました。
彼らには各々専門分野があり、その代表例が神官、医師、カヌー職人、呪術者などです。
呪術者の中には "kahuna ʻanāʻanā"と呼ばれる人がいました。
それは人を呪い殺す呪術者で、人々から大変恐れられていました。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.