174 民話 カアラとカアイアリイ(26.カアイアリイが走る)

(前回からの続き)

ウアが泣きながら話す

「そうじゃないんです、あなた様(*1)。」
と、ウアが泣きながら言いました。

その時、彼女の愛らしい瞳(ひとみ)からは、優しい涙がこぼれていました。

「あなた様の愛する人は、この谷にはいません。
そして、彼女のお母さま(カラ二)の家にもまだ着いていません。

しかしカルルの丘で、カナカたちが2人を見ています。
彼女がお父様に連れられて、カモクの森を通っていたのです(N.1)。」

怖くてたまりません

「しかしそれから先は、誰もカアラを見ていません。
ですから私は怖くてたまらないのです。

誰かが、あなた方の愛を邪魔しているのでは?
そして彼女は今、死の淵(ふち)かも。」

カアイアリイが激怒する

「カアラが死ぬって?
ああ、私の心臓から血の気が引いてしまう!」

もはや首長はそれ以上、何も聞こうとしません。

彼は激怒し憤懣(ふんまん)やるかたない思いで、
気が狂ったように、目の前の空気に殴りかかりました。

頑強な体で走り続ける

そして、急に走り出したと思うと、石だらけの丘を駆け上がって行きました。

若々しく筋骨たくましい彼の体は、頑丈な上にとても野生的です。

途中で立ち止まったり、ペースを緩(ゆる)めたりせず、
彼はこの谷の斜面を、一気にその縁まで登り切りました。

そして休む間もなく、今度は斜面を駆け下りて行ったのです。

カアラの足跡だ、 そしてはるか先には

それから彼は、明るい緑色に輝く平原に入りました。

見ると、ほこりをかぶった小道に、足跡が続いています。
これはきっと愛する彼女の足跡だ、と思った彼は、それをたどり始めました。

彼の胸は、湧き上がる期待にふくらみ、踊っています。
足の痛みもなければ、息切れもありません。

そして走りながら、注意深く周囲を見回していたその時です。
平原のはるか先に、彼を騙(だま)したあのカアラの父親が、1人でいるのを見つけたのです。

(次回に続く)
[目次へ戻る]

(ノート)
(N.1) カルル(Kalulu), カモク(Kamoku);
これらの地名は、マハナに向かっていたカアラと父が道をそれて、海の方角に向かい始めた場所、を指しています。詳細は、本ブログ 「19.母は海辺で待っている」 を参照下さい。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.