(前回からの続き)
と、大声で叫んだカアイアリイが、さらに続けます(*1)。
「私にカアラを下さい。そうでなければ、あなたの命を!」
カアラの父オプヌイは、体格は頑丈だが髪の色は既に灰色のカナカです。
彼が見たのは、カアイアリイの激情した顔と、襲いかかろうと構える両腕です。
そして、素早く谷を横切って、小道を走り出したのです。
そこは、怒り狂った奴が通って来た道です。
圧倒的に強い敵を刺激しないよう、オプヌイは奴の十分前を走っています。
彼は若くてまだピカピカの両脚で走ります。
そのフレッシュな脚を生かし、色々な場面で相手に激しく迫るのです。
谷の縁の尾根筋では、2人の距離は長槍2本分です。
若者は焦(あせ)りで顔を赤らめ、年長者は恐怖におびえています。
彼らは、ケアリアの険しい小道を突き進んでいます。
そして海に向かって駆け下りて行きます。
ごつごつした岩塊のひどい小道を、飛び跳ねるように進みます。
しかし、切り裂かれた脚は思うように動かず、足元が定まりません。
そして今、断崖上を走る2人を群衆がとり囲み、声援を送っています。
その叫び声が、2人をさらに高揚させます。
今や彼らは、最後に残された力を振りしぼっています。
聖なる逃れの壁の入口に一番乗りしよう、と競っているのです。
ここで追われる父親が、急に落ちてきた気力を奮い起こします。
また、若者は雄叫びを上げ、タフで強靭な脚の運びをさらに速めます。
そして、若者が両腕を思いっきり伸ばします。
ああ、老人よ。 あなたの喉(のど)が、若者に掴(つか)まれる!
いや違う。首に塗った油が滑って掴めない!
と、その瞬間。追い詰められたオプヌイが、必死の思いで飛び跳ねます。
こうして彼は、やっとのことで聖なる壁を捕え、シェルターに逃げ込んだのでした。
一方、怒り狂った若者は、聖職者(カフナ)たちの杖(つえ)で、行く手を阻(はば)まれたのでした。
(次回に続く)
[目次へ戻る]
(ノート)
(N.1) タブーのシェルター(the shelter of the taboo):
これは、お話しの始めに登場した「プウホヌア/駆け込み寺(pahonua/place of refuge)」と同じものです。
詳しくは、本ブログ「2.ラナイ島南西端の断崖」を参照下さい。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.
カアラか、あなたの命か!
「オプヌイ」と、大声で叫んだカアイアリイが、さらに続けます(*1)。
「私にカアラを下さい。そうでなければ、あなたの命を!」
カアラの父オプヌイは、体格は頑丈だが髪の色は既に灰色のカナカです。
彼が見たのは、カアイアリイの激情した顔と、襲いかかろうと構える両腕です。
オプヌイが逃げる
彼はすぐ決断しました。 奴と交渉や格闘なんか出来ない。そして、素早く谷を横切って、小道を走り出したのです。
そこは、怒り狂った奴が通って来た道です。
圧倒的に強い敵を刺激しないよう、オプヌイは奴の十分前を走っています。
谷の小道で2人が競う
しかし、カアイアリイは、今や神のような存在です。彼は若くてまだピカピカの両脚で走ります。
そのフレッシュな脚を生かし、色々な場面で相手に激しく迫るのです。
谷の縁の尾根筋では、2人の距離は長槍2本分です。
若者は焦(あせ)りで顔を赤らめ、年長者は恐怖におびえています。
彼らは、ケアリアの険しい小道を突き進んでいます。
そして海に向かって駆け下りて行きます。
ごつごつした岩塊のひどい小道を、飛び跳ねるように進みます。
しかし、切り裂かれた脚は思うように動かず、足元が定まりません。
駆け込み寺をめざせ
年長者は、タブーのシェルター(駆け込み寺)、に逃げ込もうとしています(N.1)。その叫び声が、2人をさらに高揚させます。
今や彼らは、最後に残された力を振りしぼっています。
聖なる逃れの壁の入口に一番乗りしよう、と競っているのです。
ここで追われる父親が、急に落ちてきた気力を奮い起こします。
また、若者は雄叫びを上げ、タフで強靭な脚の運びをさらに速めます。
オプヌイが必死に駆け込む
今や2人の距離は長槍1本分もありません。そして、若者が両腕を思いっきり伸ばします。
ああ、老人よ。 あなたの喉(のど)が、若者に掴(つか)まれる!
いや違う。首に塗った油が滑って掴めない!
と、その瞬間。追い詰められたオプヌイが、必死の思いで飛び跳ねます。
こうして彼は、やっとのことで聖なる壁を捕え、シェルターに逃げ込んだのでした。
一方、怒り狂った若者は、聖職者(カフナ)たちの杖(つえ)で、行く手を阻(はば)まれたのでした。
(次回に続く)
[目次へ戻る]
(ノート)
(N.1) タブーのシェルター(the shelter of the taboo):
これは、お話しの始めに登場した「プウホヌア/駆け込み寺(pahonua/place of refuge)」と同じものです。
詳しくは、本ブログ「2.ラナイ島南西端の断崖」を参照下さい。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.