175 民話 カアラとカアイアリイ(27.カアラの父が逃げる)

(前回からの続き)

カアラか、あなたの命か!

「オプヌイ」
と、大声で叫んだカアイアリイが、さらに続けます(*1)。

「私にカアラを下さい。そうでなければ、あなたの命を!」

カアラの父オプヌイは、体格は頑丈だが髪の色は既に灰色のカナカです。
彼が見たのは、カアイアリイの激情した顔と、襲いかかろうと構える両腕です。

オプヌイが逃げる

彼はすぐ決断しました。 奴と交渉や格闘なんか出来ない。
そして、素早く谷を横切って、小道を走り出したのです。

そこは、怒り狂った奴が通って来た道です。
圧倒的に強い敵を刺激しないよう、オプヌイは奴の十分前を走っています。

谷の小道で2人が競う

しかし、カアイアリイは、今や神のような存在です。

彼は若くてまだピカピカの両脚で走ります。
そのフレッシュな脚を生かし、色々な場面で相手に激しく迫るのです。

谷の縁の尾根筋では、2人の距離は長槍2本分です。
若者は焦(あせ)りで顔を赤らめ、年長者は恐怖におびえています。

彼らは、ケアリアの険しい小道を突き進んでいます。
そして海に向かって駆け下りて行きます。

ごつごつした岩塊のひどい小道を、飛び跳ねるように進みます。
しかし、切り裂かれた脚は思うように動かず、足元が定まりません。

駆け込み寺をめざせ

年長者は、タブーのシェルター(駆け込み寺)、に逃げ込もうとしています(N.1)。


そして今、断崖上を走る2人を群衆がとり囲み、声援を送っています。
その叫び声が、2人をさらに高揚させます。

今や彼らは、最後に残された力を振りしぼっています。
聖なる逃れの壁の入口に一番乗りしよう、と競っているのです。

ここで追われる父親が、急に落ちてきた気力を奮い起こします。
また、若者は雄叫びを上げ、タフで強靭な脚の運びをさらに速めます。

オプヌイが必死に駆け込む

今や2人の距離は長槍1本分もありません。
そして、若者が両腕を思いっきり伸ばします。

ああ、老人よ。 あなたの喉(のど)が、若者に掴(つか)まれる!
いや違う。首に塗った油が滑って掴めない!

と、その瞬間。追い詰められたオプヌイが、必死の思いで飛び跳ねます。
こうして彼は、やっとのことで聖なる壁を捕え、シェルターに逃げ込んだのでした。

一方、怒り狂った若者は、聖職者(カフナ)たちの杖(つえ)で、行く手を阻(はば)まれたのでした。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) タブーのシェルター(the shelter of the taboo):
これは、お話しの始めに登場した「プウホヌア/駆け込み寺(pahonua/place of refuge)」と同じものです。
詳しくは、本ブログ「2.ラナイ島南西端の断崖」を参照下さい。



(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.