179 民話 カアラとカアイアリイ(31.島の南岸に行き着く)

(前回からの続き)

深いカウノル渓谷を下る

これを聞いた首長カアイアリイは、すぐ再び海の方に向かいはじめました(*1)。
そして深いカウノル渓谷の、日差しもない小道を下って行きます。

彼は、色々な木が生い茂る日陰の中を、うねるように進みます。
-- オヒア、サンダルウッド、黄色い花のママネ、紫色の花の灌木、そして香り高いナーウー(N.1)。


彼が立ち止まったのは、パラワイ平原に着いたからではありません。
いつも山頂を覆(おお)う雲が張り出して、この谷が日陰になったために、疲れた足が冷えたのです。

静まり返った地を行く

このあたりの高地はとても静かでした。
ピリ帽子をかぶった人の声も、全く聞こえません(N.2)。

パラワイの人たちのマイカ遊びの道具は、そこに置かれたままです。
ボールが転がっており、コースには杭が立っています(N.3)。

なぜって?
彼らは皆、島に来た大王を歓迎しようと、海辺のカウノル村に行ってしまったのです。

カアイアリイは、この静かで谷の花が咲く小道を、1人で歩こうと思いました。

彼を深く愛するウア

しかし、彼を深く愛する一人の女性がいました。

かつて彼が駆け込み寺(ヘイアウ)の前で倒れた時、彼女は疲れ果てた彼の手足を癒(いや)してあげました。
そのなかで彼女の心に愛が芽生え、やがて彼を深く愛するようになったのでした。

彼女、ウアは若く柔軟な手足で、彼の旅について来たのでした。

嘆き悲しむ彼が、肉体的にも疲れて重い足取りで歩きまわる時、彼女はずーっとついて来ました。
-- 深い峡谷を通り抜ける時も、また丘の城壁を越える時も。

そして、悲しそうで長旅に疲れた首長が、島の南岸に着いた時も、彼女は彼の近くにいました。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) オヒア(ohia), サンダルウッド(sandalwood), ママネ(mamane), ナーウー(na-u):
色々な種類の灌(かん)木が登場しています。オヒアは赤や黄色の花レフアをつけます。 サンダルウッド(英名)は、ハワイ名がイリアヒ(ʻiliahi)、和名はビャクダンで、花の色は白や紫です。 ママネ(原文は"mamani")は黄色、そして香り高いナーウーの花は白色です。

(N.2) ピリ(pili):
ピリ帽子は広義の麦わら帽子で、麦わらの代わりに、ピリを使って編んだ帽子です。 かつてハワイでは、屋根を葺く材料としても、このピリが使われます。


(N.3) マイカ(maika):
マイカとは、かつてのハワイで人気のあったゲームで、現在のボーリングに近いとも言われます。 ゲームで使われるボールの呼称もマイカです。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.