181 民話 カアラとカアイアリイ(33.水しぶきの中のカアラ)

(前回からの続き)

カアラを想うカアイアリイ

ハワイの島々ではあの大きなサメが、まだ小さい子供たちを何人も貪り食い、人々から恐れられています(*1)。

そのことを思い出した悲しげな英雄カアイアリイは、両手で顔を覆い隠しました。

『彼女は今、ハワイの海に棲むあの恐ろしい神の、あごの中にいる。
そしてかみ砕かれ、血みどろになり、悲鳴を上げている。』

愛する若く優しいカアラを想い、彼は我が身を苦しめたのでした。

それから彼は、愛する人を思い出しながら、じっくりと考えました。
そして、こう心に決めたのでした。

『たとえ海のなかの、血にまみれた墓の中にいても、彼女を探し出さねばならぬ。』

潮吹き穴を見下ろす

彼は再び目の前に広がる、海に視線を向けます。

そして眼下の海辺を注意深く見て行きます。
やがて彼の視線は、カウマラパウ近くの潮吹き穴の、水しぶきに向けられます(N.1)。

それは、遠くの海から南風が送り込む大波の力で、高く飛び跳ねます。
その白い水しぶきが、太陽の光を受けて輝いています。

飛び跳ねる海水の噴き出し方が変わるたびに、
水しぶきやその陰の形も、変化しているのがわかります。

水しぶきの中にカアラが見える

彼は非常に興奮した精神状態で、その様子をちらっと見ます。
すると、飛び跳ねる水しぶきの中に、ある1つの姿が浮かび上がります。


そうです、情熱的な彼の目に、愛する彼女の姿が見えて来たのです。
彼女は彼の魂に優しく触れ、からみついています。

そして、彼女のあの波打つ髪が見えます。
その髪は彼の首のあたりで、黒ずんだ彼の巻き毛と混じり合っています。

彼には見える、-- そう、見えると思えるのです。

太陽に染まりながら、飛び跳ねて遊ぶ水しぶきの中に、
彼の愛する人、彼が失ったカアラが見えるのです。

彼は大急ぎで、この水しぶきが見える、海辺に駆け下りて行きます。


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 潮吹き穴(blowing cave):
一般的な日本語は「潮吹き穴」、そして英語は"blowhole"です。
これに対して、原文では本場面以前にも同一物が登場しましたが、今回とは表現が異なりました。
その時の原文は "boiling gulf"および"spouting cave"で、各々「荒れ狂う深い淵」および「潮吹き穴」と和訳しました。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.