186 民話 カアラとカアイアリイ(38.カアラが逝く)

(前回からの続き)

カアラよ 生きるんだ

「いや違う、私の愛する人よ。」
悲しみと涙でいっぱいの首長カアイアリイが言いました。

「今はもう、私が一緒だ。

私の心臓の温(ぬく)もりを、あなたにあげよう。
あなたの体に移った、私の生気を感じ取るのだ。

生きるんだ、私のカアラよ。 私のために生きてくれ。

元気になってレイを編んで

こっちへ来なさい。気持ちを落ち着けて、体をゆったり休めなさい。
そして早く、海の中を息を止めて、泳げるようになりなさい。

そうすればもう一度、甘い香りが漂う所やあなたが住む谷へ、連れて行ってあげよう。
そしてその時は、私に花輪を編んで下さい。」

カアイアリイは愛するカアラを優しく撫でながら、愛情溢(あふ)れる言葉を投げかけて、必死に彼女を癒(いや)そうとしたのでした。

私を花の中に埋めて!

しかし可哀そうにも、彼女はなおも出血が止まらず、うめき声を上げていました。
そしてさらに弱々しくなった声で、こう言いました。

「違うんです、私の首長。 私はもう二度と花輪を巻いてあげることはないでしょう。
しかし私の両腕だけは、もう一度あなたの首に回しましょう。」

それから両腕を弱々しく回すと、悲しそうに涙にむせびながら、彼女はかすかな声で言いました。

「アロハ、私の愛する方!

私をワイアケアクアに咲く花の中に埋めて下さい(N.1)。
そして、わたしの父を殺さないで下さい。」


カアラが逝(い)く

しばらくの間、彼女は愛する彼の胸に抱かれていました。

そして、うめき声を上げたり愛をささやきながら、息をしていました。
しかし意識がもうろうとしてきて、体力も衰えて両腕は垂れ下ったままでした。

ところが、その彼女が突然、彼の首にしっかりと腕を回します。

そして、頬を寄せながら彼にしがみつき、うめき声を上げます。
彼女は最後の愛のときめきにあえぎ、そして、帰らぬ人となったのです。

カアラの引き裂かれた哀れな死骸は、残されたカアイアリイの腕の中で、ぐったりとしています。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ワイアケアクア(Waiakeakua):
ワイアケアクアは、ラナイ島の最高峰ラナイハレの南側にある高地です。
そこは「聖なる水源」の地で、以前、カアイアリイがカウノル村のカフナと出会った場所でもあります。
(詳細は、本ブログ 「178 民話 カアラとカアイアリイ(30.海の洞窟があやしい)」 参照。)

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson.