199 アフウラ(2.クキニよりも速い女)

(前回からの続き)

島はずれのハナに行って来い!

使者のエレイオは、「ハナに行って、王のためのアヴァを取って来い。」と命じられました(*1)(N.1)。
さらに、「王の晩餐会に間に合うようにな!」 と言われたのです。

その時、マウイ島の王カカアラネオは、ラハイナに住んでいました。


エレイオには霊が見える

さて、エレイオはクキニ(使者)であるだけでなく、カフナ(神官)でもありました。
そして色々な宗教儀式の奥義を伝授したり、行事の手ほどきをして来ました。

そのなかで彼は、霊や魂を見ることが出来るようになったのです。
また医術や呪術(じゅじゅつ)をはじめ、色々なことを修得して来ました。

そして今では、この世を彷徨(さまよ)う魂を、人の体に戻せるようになったのでした。
但し、その体が腐敗し始めていない限りですが。

前方に美しく若い女性が

それはオロワルを出てしばらく後、彼がアアラロロアの坂を上り始めた時のことです。
前方に、美しく若い1人の女性が見えて来ました。

女性を見つけた彼の歩みは、自然に速まりました。
-- その魅力的な女性、旅の仲間、に追いつこうと思ったのです。

ところが、いくら追い付こうとしても、追い付けません。
いつまでたっても、彼女は彼のはるか先にいるのです。


燃え上がる闘志

その当時、まさに彼こそが一番速く、そして一番名を知られたクキニでした。
その彼が、たとえ短区間とは言え、1人の女性に追いつけないとは!

プロとしての誇りが、彼の闘志を燃え上がらせました。

そして 「絶対に追いついてやる!」 と心に決め、
全体力と精神力を注ぎ込んで、彼女を追い駆け始めました。

一方、その若い女性はと言うと、相変わらず彼の前をどんどん進みます。
-- 岩場を越え、丘、山、深い谷、断崖絶壁、そして暗い流れを、次々と越えて行きます。

その勢いはものすごく、追いかける彼の方が疲れ果てる程でした。
こうして彼らは、カウポを越えカヒキヌイに入り、ハナマヌロアの岬までやって来ました。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) アヴァ(awa):
南太平洋諸島にはカヴァ(kava)と呼ばれる飲料があり、ハワイではそれをアヴァ('awa)と呼んでいます。
アヴァには精神活性作用があることから、宗教儀式などでも使われていました。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, 14. Ahuula ; A Legend of Kanikaniaula and the First Feather Cloak, Mrs. E.M.Nakuina.