231 カペエペエカウイラ(15. ヒナが逃げる)

(前回からの続き)

カペエペエカウイラが戦いを決意

カペエペエカウイラは、こよなくヒナを愛していました(*1)。
そこで彼はこう宣言しました。

「敵がどんな戦略で来ようが、ハウプには指一本触れさせぬ。
見よ! このハウプの丘は、天まで伸びているんだ。」

ニヘウの鍵を汚(けが)せ

カペエペエカウイラが狙ったのは、ニヘウが持つ聖なる鍵でした。
彼はその鍵を汚そうと考え、コレア(ムナグロ)の一群を送りました(N.1)。



なぜならその聖なる鍵はカプ、すなわちタブーだったからです(N.2)。
万一それが誰かに触れたら、ニヘウは厳しい罪悪感に襲われて、ヒナを手放さざるを得ないのです。

こうしてコレアの一群は、ニヘウをめざして大空を進み、遂に彼の聖なる鍵に触れました。
そのためニヘウは厳しい罪悪感に苛(さいな)まれ、逃げ出す母をそのまま見送ったのでした。

コレアの尾を叩きつぶす

残されたニヘウは、魔法の棒でコレアたちを攻撃しました。
尾の羽根を狙(ねら)って、思いっきり叩(たた)いたのです。

群れるコレアたちを叩きまくり、一羽残らずぺしゃんこにしたのでした。
ですから今でも、コレアたちは尾が無いままなのです。

それから、ニヘウは岸辺へ戻って行きました。
一方、コレアたちは、ヒナを勝ち取った勝利に酔っていました。

カナにはトリックも効かない

岸辺に着いたニヘウは、血が流れるまで額(ひたい)を石で叩きました。
しかし、カヌー上で彼を待っていたカナは、このトリックを見抜いていました。

カヌーに戻ったニヘウが言いました。
「見てくれ! 奴らと戦ったんだ。 そして、頭に傷を負ってしまったぜ。」

しかしカナは、こう言い返しました。

「嘘(うそ)だ、戦いなんか無かったんだ。
失敗が恥ずかしくて、自分でその傷を付けたんだ。」

すると、ニヘウがこう応じました。
「何だって。そんなら、奴らと戦う気か?」

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) コレア(ムナグロ) (kolea(plover)):
コレアは、和名ムナグロ、英名"Pacific Golden plover(略称:plover)の渡り鳥です。
ハワイでは毎年、8月末にアラスカやシベリアからやって来て冬を過ごす冬鳥で、翌年5月初めには帰って行きます。
(N.2) カプ(kapu) :
カプとは、タブーを意味するハワイ語で、かつてのハワイ社会を支配した厳格な規則です。
カプには色々なものがあり、人々の日常生活のあらゆる場面で影響を与えていました。
例えば、首長(chief)が村の中を歩く時、平民(makaʻāinana.)はひざまずき、頭を下げねばなりませんでした。
万一このカプが破られると、首長が持つ神聖な力が減ってしまう、と言われたそうです。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.