257 サメ男(1.サメの王とワイピオ)

(新しいお話の始め)

サメの王カモホアリイの洞窟

カモホアリイは、ハワイ島とマウイ島の、サメの王でした(*1)(N.1)。
彼は深い海の洞窟をいくつか持っていて、順番に棲家(すみか)にしていました。

それらの洞窟は、ハワイ島のワイピオからコハラの方向に伸びる、断崖絶壁の足もとにありました。


その中のお気に入りは、ハワイ島本土のコアマノにある洞窟でした。
そしてもう一つは、ワイピオ渓谷とちょうど並ぶとても小さな島、マイアウキウにありました(N.2)。


サメの神は人間にもなれる

かつてのハワイの人々は、サメの神々について、こんな風に信じていました。

「神々の中には、彼らがなりたいと思えば、どんな姿にも変われるものがいる。
--- もしも必要とあらば、人間の姿にさえも。」

ワイピオの美女カレイ

ウミ王の治世の時代、カレイと呼ばれる美しい少女が、ワイピオ渓谷に住んでいました。
彼女は貝類が大好きで、お好みの貝類を採りに、しばしばクイオピヒへ出かけました。

彼女は、いつもは、他の女性たちと一緒に行きました。

しかし海が少し荒れると、いつもの仲間たちは怖がって、
荒れて危険な海辺に、あえて出かけようとはしません。

そんな時、彼女はしばしば一人で海辺に出かけました。
大好きな貝類無しで済ませるよりも、一人で出かける方を選んだのです。

渓谷が干上(ひあ)がる

その当時、ワイピオ川流域の降水量は僅(わず)かでした。
そしてその僅かな雨水も、ワイピオ川から海へ流れ出てしまうのでした。

今やこの流域はどこを見ても岩だらけ、岩で埋め尽くされています。
その頃から起きている、自然界のある異変に因(よ)るものでしょう。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) ナクイナ(E.M.Nakuina):
このお話しの執筆者はナクイナさんです。


彼女の父は米国からハワイに渡って帰化し、首長(ali'i)の家系に生まれた母と結婚しました。
二人の間に生まれたナクイナさんは、ハワイ初の女性裁判官になり、また水利権の権威者としても知られていました。
さらに、ハワイ歴史協会初の女性会員になるなど、文化・教養活動にも注力しました。
スラムさんの著書 "T.G.Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales)" では、この 「サメ男 (24. The Shark-man)」の他にも、多くのお話しを担当しています。
(N.2) ワイピオ渓谷(Valley of Waipio):
ワイピオ渓谷は古くからハワイ島の中心として栄え、多くの首長たちが住んでいました。
このお話しの時代に、ハワイ島を治(おさ)めていたウミ('Umi-a-Līloa)王も、このワイピオを拠点に活動しました。
またワイピオ渓谷は 「王家の谷」とも呼ばれて、この谷の断崖絶壁の洞窟には、かつての王たちが葬られていると伝えられています。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.