260 サメ男(4.サメの口を持つ赤ちゃん)

(前回からの続き)

夫が正体を明かす

カレイが妊娠して、赤ちゃんが生まれる少し前のことでした。
これまでずーっと、夜にだけ家に帰って来た夫が、彼女に自分の正体を明かしたのです。

そして、自分は去らねばならぬ --- 彼女を残して、と告げながら、
生まれてくる子のしつけについて、幾つか指示をしました。


肉は食べさせるな!

そのなかで彼が母親に、特に強く注意したのが、これでした。
「動物の肉は絶対にだめだ! どんな種類だろうが食べさせるな。」

なぜなら生まれてくる子には、二面性があるからです(N.1)。
そしてその子は自分の体も、思いのままに替えられるからです。

赤ちゃんにサメの口がある

やがて、カレイは素敵で健康そうな男の子を産みました。
一見した所、その子は他の子供たちと同じでした。

ところがです。彼には普通の人間の口とは別に、もう一つ口があったのです。
それはサメの口で、背中の2つの肩甲骨(けんこうこつ)の間にありました。

背中の口は秘密だ

カレイは彼女の家族に、夫がどのような存在なのかを、既に話してありました。

そして家族の皆がこうすることで、意見が一致しました。
「この子の背中にサメの口があることは、秘密にしておこう。」

と言うのは、これが王や高位の首長たちに知れたら、どんな事になるか判らなかったからです。

もしも王たちが、あの異常な存在、サメの口がある子を知ったら、
彼らの心の中には、一体全体、どのような恐怖心や嫉妬(しっと)心が湧(わ)くのでしょう。

ひょっとすると、赤ちゃんが殺されてしまうかも知れないのです。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 二面性( dual nature):
「二面性」とは、サメである父と人間である母から生まれる子には、サメと人間の両方の面があるとしたものです。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.