262 サメ男(6.サメの本性は隠せ)

(前回からの続き)

近くの淵(ふち)でサメになって遊ぶ

ワイピオ川にはもう一つ淵(ふち)があります(*1)(N.1)。
こちらには小さな滝があり、カレイの家からすぐ近くでした。

そこで男の子(ナナウエ)は、しょっちゅうその淵に行って水に入り、
彼の母はその間、土手の上から目を光らせていました。

彼が水に入る時はいつも、サメの姿になったものでした。
そして、この淵に沢山いた小魚を追いかけては食べていました。


サメの本性は隠せ

彼が成長して、物事を理解できる年頃になると、
母は並々ならぬ努力を重ねて、彼の頭にこう刻み込もうとしました。

「サメとしての本性は、他人に知られぬよう、隠さねばならぬ。」

水浴びはいつも一人

この淵は人々に人気がある、もう一つの水浴場でもありました。

そして真のハワイアンは諸々の習慣により、他の人たちと連れ立って、水浴びに行きました。
しかしナナウエはその逆で、絶対に他の人たちとは行かず、いつも一人でした。

そして母の都合がつけば、母も一緒に行って土手に座ったものでした。

そんな時の彼女は、カパ布のショール(肩かけ)を抱えていました。
そうです、背中のサメの口を隠すため、彼がいつも身につけたあのショールです。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 淵(ふち)(pool):
淵とは、川の流れが穏やかで水深が深い所を指します。カモホアリイが頻繁に遊びに来たのも水深が深い淵でしたが、ここで言う淵は それとは別の場所にある「もう一つの淵」です。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.