263 サメ男(7.マント姿の大食い男)

(前回からの続き)

サメのような大食い男

ナナウエが一人前の男になった時、動物肉を食べたいと言う欲求が、とても強まっていました。
何故(なぜ)って、子供の頃には食べ放題だったのですから。

そのため、普通の人間の一人分だけでは、とうてい満足出来ませんでした。

そしてその頃にはもう、高齢だった祖父は亡くなっていました。
そこで彼は義理の父と叔父(おじ)たちに、食べさせてもらっていました。

その義父たちはナナウエに、こう忠告せざるを得ませんでした。
「お前は、サメのように大食いだ。」

これが、 「マノハエ (飢えたサメ)」、と言うニックネームが生まれた由来です(N.1)。
ものすごい大食い、特に肉に目が無い人の愛称で、ハワイのネイティブに良く見られます。

なぜいつもマントをかける?

ナナウエは、大変多くの時間を2つの淵(ふち)で過ごしたものでした。
そのうちの一つは内陸にあり、もう一つは海につながっていました。

さて、おせっかいな人たちがいるのは、その頃も今と同じでした。
彼らはナナウエのことを不思議に思い、あれこれと知りたがりました。

「なぜいつも両肩にキヘイ、すなわちマント、をかけているのだろう(N.2)。」
当時の若者たちの普段の服装を思い起こせば、この疑問はごく当然のことでした。

しかも、彼のようにハンサムで筋骨たくましい若者が、このマントをかけていたので、
人々はあれこれと考えて、憶測が憶測を呼んだのでした。

彼はまた、若者たちが好きなどんなゲームや娯楽にも、加わりませんでした。

風が吹いたり体を激しく動かしたりして、カパ布のマントがずれて、
サメの口を他人に見られるのが怖かったからです。



(次回に続く)
[目次へ戻る]

(ノート)
(N.1) マノハエ(飢えたサメ)(manohae(ravenous shark)):
マノハエ はハワイ語で、"mano"と"hae"から成る語です。"mano" はサメ全般を総称する名詞、"hae"は「どう猛な」という形容詞ですから、 "manohae" は 「どう猛なサメ」 を意味します。
なお (飢えたサメ) は、原文中で"manohae"にカッコ書きで付記された英語、(ravenous shark)の和訳です。
(N.2) キヘイ(kihei):
キヘイはハワイ語で、マロ(malo;ふんどし)と並ぶハワイの伝統的な衣類です。長方形のタパ布から成り、これを身に着けるには、肩にかけて2隅を結びつけます。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.