270 サメ男(14.王が母の話を聞く)

(前回からの続き)

母親と親類縁者を殺せ

人々と首長たちは、あんな怪物を育ててしまった、母親と親類縁者たちを殺すことに賛成でした(*1)。

カレイとその兄弟たちは捕らえられ、縛り上げられて、ウミ王の前に引きずり出されました。

しかし人々は、今すぐ彼らを処刑すべきだ、と騒ぎ立てました。
いやもっと言えば、誰かがこんな風に、ほのめかしたのでした。

「あのナナウエのために燃やした炎の中に、彼らを放り込め。」

王が母の話を聞く

しかし、ウミは賢明な王でした。

彼は正式な裁判もせず処刑することには、同意しませんでした。
そしてカレイに、彼女の恐ろしい子について尋ねました。

深く悲しみ怯(おび)えながらも、母はすべてを話しました。

--- 父親のこと、その子を育て上げた様子、
そして、あの恐ろしい海の父から受けた警告。

ウミはじっくり考えて、こう思いました。
偉大なる海の神カモホアリイは、強い力を持つだけでなく、大方(おおかた)は慈悲深い。

息子を知るのは母親と親類縁者だけだ

万一、サメの神の息子の母親や親類縁者が、殺されてしまえば、
あの息子の残虐(ざんぎゃく)な行為をくい止める術(すべ)が、無くなってしまうだろう。

一方、彼はこれからも、この島の海岸や入り江の近くをウロつくだろう。
さらに意のままに人間の姿に変わり、内陸のどこでも好きな所を動き回るだろう。

そして、それから再び魚の姿に戻ると、川の流れや泉が作り出した、
数多くある深い淵の中で横たわり、じっと獲物を待ち伏せすることだろう。



(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.