275 サメ男(19.海に向けて転がる)

(前回からの続き)

人喰い鮫は焼き尽くせ!

それから人々は皆、そろって薪(たきぎ、まき)集めを始めました(*1)。
--- サメ男ナナウエを焼くためです。

と言うのは、よく知られているように、人喰い鮫を完全に葬り去るには、
「跡形も無く焼き尽くす。」 しか方法が無いからです。

さらに、焼き尽くしてしまえば、この人喰い鮫の霊が、
魚を食べる無害なサメの体に、乗り移ることも防げるのです。

さもないと無害だった鮫が霊に煽(あお)られ、
人喰い鮫と同じように、凶悪な事を始める恐れもあります。

ナナウエが逃げる!

さてナナウエは、干潮時に現れた砂浜で横になっていました。
しかし、やがて潮が満ちて来ました。

一方、ほとんどの人々は薪(まき)や焚き木(たきぎ)を背負って、家に帰る途中でした。


するとナナウエがあらん限りの力を振り絞って、海に向けて砂浜を転がり始めました。
うまく海水に足を触れれば、その瞬間に巨大なサメに変身出来るからです。

海に網を張れ!

その様子が、彼の近くにいた人々の目に入りました。
人々はナナウエのことを、そう安々と逃がそうとは、しませんでした。

彼らは海に何列かの網を張りました。
というのはかなり先まで、水深が大変浅かったからです。


(次回に続く)
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(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.