276 サメ男(20.半神ウナウナとの戦い)

(前回からの続き)

サメは縛られ、殴られて出血した

こうしてナナウエが変身したサメは、彼を縛り上げていたロープを使って、
ヒレというヒレの全てが縛られ、動かせなくなってしまいました(*1)。


これに水深の浅いことも加わって、もはや持ち前の剛腕も、上手く生かせなくなりました。

彼はもがきながらも、何とかして、波が砕ける地点まで進みました。
しかし出血がひどかったため、そこで急激に衰弱してしまいました。

と言うのは、彼が逃げないようにと、人々は彼を殴(なぐ)り続けていたからです。
こん棒、槍(やり)、石手斧(いしておの)、その他にも傷めつけれそうな物なら、何でも使いました。

半神ウナウナは未だ若かった

それでもまだ、恐らくナナウエは、この危機を乗り切っていたでしょう。
--- もしも人々が、カイナルの山岳地帯に住む、半神ウナウナに助けを求めなかったら。

ですからこれは、「アクアの戦い」 と言う訳です(N.1)。

ただしアクアとは言っても、ウナウナは未だ若い一半神に過ぎませんでした。
そして恐らく彼は未だ、その強さや超自然的なパワーの、全ては修得していなかったでしょう。

一方、ナナウエはと言うと、十分に成長した大人の人間でありサメでした。

ナナウエが勝っていた?

ということで、もしナナウエの行動に邪魔が入らなければ、このお話しの結末は全く違っていたようです。
ここで言う邪魔とは、彼を縛った縄、行く手を遮(さえぎ)った網、そして出血、のことです。

もしもこれらが無かったら、
「ナナウエは、地域を仕切る若い守護神ウナウナに勝っていた。」
と、人々は信じて疑わないのです。

結局はナナウエが敗れた

しかし結局は、彼は負けてしまいました。
そして、カイナルの丘の斜面上を引きずり上げられたのでした。
--- そこで焼き殺されるために。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) アクア(Akua) :
「アクア」はハワイ語で、「神」を表わす語です(*2)。ウナウナは半神、そしてナナウエの父カモホアリイはサメの神です。

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 24.The Shark-man, Nanaue. Mrs.E.M.Nakuina, p.255-268.
(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.15.