289 オアフヌイ (12.息子を見捨てた妻を殺す)

(前回からの続き)

妻に息子たちの消息を尋ねる

父でありまた夫でもある男(レフアヌイ)は、それから、大股で自分の寝屋(ねや)へ行きました(*1)(N.1)。
そこでは彼の妻が、一番下の子を抱いて眠っていました。


彼は彼女を呼び起こすと、2人の息子たちはどうした? と尋ねました。
母は只々(ただただ)涙を流して泣くだけで、何も答えませんでした。

王に抵抗すべきだった

彼はこう言って、彼女を非難しました。

「お前は弟である王に尽くし過ぎだ。
そして、あの冷酷な怪物の食欲を満たすために、言われるがままに、お前の子供たちを渡してしまった。」

また彼は彼女にこう言って、王家の現状を思い起こさせました。

「お前には弟と同じだけの権力があり、しかも弟の方はとても評判が悪い。
だからお前は王に抵抗すると決め、家臣たちに頼んで、お前の子供たちを守れば良かったのだ。
そうすれば今頃は、王は殺され、お前の子供たちは命を救われていただろう。」

私よりも弟を選んだ

それから、彼は彼女にこう伝えました。

「お前は俺の子供たちが殺されても、弟のためだから仕方が無い、と諦(あきら)めたのだ。
だから俺はその仕返しとして、奴を殺してやったのだ。」

さらに、

「お前は、私と私の家族よりも、お前の弟の方を選んだのだ。
だからお前はもう2度と、私と私の家族と会うことは無いだろう。」

と言いながら、彼は彼女の腕から、眠っていた子供を奪い取りました。
そして、その家から去ろうとして、背を向けました。

お前も弟のところへ行け

可愛そうに、妻でありまた母でもある女(キリキリウラ)は、彼の後を追いかけました。
そして夫に飛びつくと、その両膝(ひざ)にしがみ付いて、引き留めようとしました。

しかし父の方は、我が子を失った喪失感と、彼女の愛情の薄さのために、 まるで気が狂ったようでした。
何故って彼女の愛情は、残虐で非人間的な弟には厚く、彼女自身の子供には薄い、と彼には思えたのですから。

そして、父はこう叫びながら、全力で彼女に殴りかかりました。
「よーし、それなら、弟の後について行け。」

それから彼は、急いでそこから走り去り、家臣たちも1人残らずその後を追いました。

(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 寝屋(sleeping-house):
ここでは原文の"sleeping-house"を「寝屋」と訳しました。王家の敷地内には幾つもの家があり、そのうちの1つがレフアヌイ夫婦が寝る家"sleeping-house"で、ハワイ語では"hale noa"と呼びます。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 13.Oahunui. Mrs.E.M.Nakuina, p.139-146.