343 旧約聖書の歴史に似た伝説 (9. カナロア神)

(前回からの続き)

カナロアと最初の人

伝説はさらに、こう教えてくれます(*1)(*2)。

カネ、クー、そしてロノが、最初の人を土から創造していた時、カナロアもそこに居ました(N.1)。
彼はカネをまねて、もう一人の人間を土から造ろうとしました。

粘土で形を作り上げると、彼はそれに向かって、 「さあ生きよ!」 と呼びかけました。
しかし、そこに生命が宿ることはありませんでした。

怒ったカナロアは、カネにこう言い放ちました。
「あんたが造った人を連れ出して、ぶっ殺してやる。」

そして、実際にそうなったのでした。

こうして最初の人は、もう一つの名前 「クム-ウリ」、を授かったのでした。
この名前には、追放された首長、ヘ リイ カフリ、と言う意味があります(N.2)。

ハワイ人にとっては悪霊の化身

ハワイの人々にとってのカナロアは、人間の姿をしてこの世に現れる悪霊です。
そしてまた死の源であり、ポ すなわち混沌の王子なのです。

なおかつ彼は、神に逆らった反抗的な天使でしたが、結局はカネ神に打ち負かされ、罰せられたのでした。

他の神々よりも後から渡来

ハワイにカナロアが渡来し、偉大な神々の1柱として崇拝され始めたのは、いつ頃だったのでしょう?
歴史を遡(さかのぼ)ってみると、その時期はかなり新しく、南方からの移民が到来した時期、すなわち、今からおよそ8百年ほど前です(N.3)。


それ以前のチャントでは、カナロアの名が、カネ、クー、そしてロノと同時に上げられることは、決してありません。
また、それ以後のハワイ神話の中でも、彼がカネの上に立つことは、決してありません。


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 最初の人(the first man):
このお話の中で神が最初に創造した人、すなわち「最初の人」 の名はクムホヌア(Kumuhonua)でした。
以下の本文では、カナロアが人造りに加わることで、クムホヌアにもう一つの名前が与えられたことを解説しています。
(N.2) ヘ リイ カフリ(he ’lii kahuli):
ヘ リイ カフリは、前の語「追放された首長」をハワイ語で表記したものです。
これは3つの語、へ(he),リイ(’lii), カフリ(kahuli) から成っています。ここで、he = a(英語) = 不定冠詞(日本語)、’lii = ali'i(の省略形) = chief(英語) = 首長(日本語)、kahuli = overthrown(英語) = 打倒(/追放)された(日本語)です。従って、ヘ リイ カフリ(he ’lii kahuli) を和訳すると 「追放された首長」となります。
(N.3) 8百年ほど前(some eight hundred years ago):
ポリネシア人の移民がハワイに到来した時期は、大きく2回あるとされてきました。本文の原典(Fornander(1878))では、その第1回目が5世紀、第2回目が11世紀としています(*2)。
一方、このお話ではカナロアの渡来を8百年前としているので、上記の第2回目に相当しそうです。
なお、2010年に放射性炭素年代測定(C14法)が実施された結果、現在では、最初の移民がハワイに到来した時期は13世とされています(*3)。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 1. Legends Resemblng Old Testament History. By C. M. Hyde, p.15-30.
(*2) Abraham Fornander(1878): An Account of The Polynesian Race, its orgin and migrations and --, Vol.1. p.83-85, 168.
(*3) J. M. Wilmshurst et al.(2010): High-precision radiocarbon dating shows recent and rapid initial human colonization of East Polynesia, PNAS, vol. 108 no. 5, p.1817.