345 旧約聖書の歴史に似た伝説 (11. ヌウの方舟)

(前回からの続き)

ハワイの島々に伝わる洪水伝説

「ハワイの島々には、洪水の伝説が幾つかあります(*1)(*2)
ある伝説ではその洪水について、次のように語っています。

それはヌウ、もしくはナナ-ヌウの時代 のことでした。
(ここで「ナナ」は「ラナ」とも発音されるので、「浮遊する」を意味します。)(N.1)

洪水、ハワイ語で言うカイ-ア-カヒナリイ、が大地に這(は)い上がって来たのです。
そして、ありとあらゆる生き物を、絶滅させてしまったのでした。

一方、ヌウは彼の神の命令に従って、大きな船を1そう造りました。
船の上には1つの家が造られました。

その船はこんな風に呼ばれ、また幾つかのチャントでも歌われています。
『ヘ ワア ハラウ オ カ モク(N.2)』

この『堂々とした立派な船』に乗っていたのは、ヌウと彼の家族でした。
こうして、ヌウと妻のリリノエ、それに3人の息子と妻たち、が救われたのでした。

マウナ ケアに残るほら穴

洪水が引くと、カネ、クウ、そしてロノの3神が、ヌウのワア ハラウの中に入って来ました(N.2)。
そしてヌウに、外に出て来るように言いました。

彼は言われた通りにしました。
そして、自分がマウナ ケア(ハワイ島で一番高い山)の頂上、にいることに気付いたのでした。


彼は、そこにあった一つのほら穴に、彼の妻の名前と同じ名を付けました。

そのほら穴は今もなお、そこにあります。
-- それこそが、この伝説が事実であることの証(あかし)なのです。

また、この伝説の幾つかの他のバージョンでは、こんな風に言われています。
『ヌウは、カヒキ-ホヌア-ケレ、 果てしなく広大な国、に上陸してそこに住みました。』」
・・・


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) 丸括弧(まるかっこ)内:
丸括弧内は、その前文中にある語 「ナナ」に対する注記です。この部分は、Fornander(1878)では脚注でしたが、本文では該当箇所直下に括弧書きで挿入されています(*2)。
(N.2) ヘ ワア ハラウ オ カ モク (He waa halau o ka Moku):
「ヘ ワア ハラウ オ カ モク」はハワイ語の句です。原文ではこれを"royal vessel" と英訳しています。ここではその英語句を和訳して「堂々とした立派な船」としました。
また原文では、「ヘ ワア ハラウ オ カ モク」の少し後に、その句の省略形「ワア ハラウ」が使われています。ワア(waa)=カヌー、ハラウ(halau)=長い家ですから、ワア ハラウは 「大きなカヌー上の家」 を意味します。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 1. Legends Resemblng Old Testament History. By C. M. Hyde, p.15-30.
(*2) Abraham Fornander(1878): An Account of The Polynesian Race, its orgin and migrations and --, Vol.1. p.91.