355 旧約聖書の歴史に似た伝説 (21. 第一の仮説と問題点)

(前回からの続き)

第1の仮説

「2つの仮説」、とフォルナンダー判事は言います(*1)(*2)。
「民間伝承のこの顕著な類似性を説明するには、まず2つの仮説を立てるのが良いでしょう。

その第1は16-17世紀、スペインがスパニッシュ メインとマニラの間で、ガレオン貿易を行っていた時期です(N.1)。

貿易船が難破して遭難したスペイン人やポルトガル人は、漂着先で十分な影響力を持っていました。
ですから、その地の人々が長く語り伝えて来た伝承の中に、これら聖書の歴史の断片を取り入れることが出来たのです。

これには問題点がある

しかしこの第1の仮説に対して、私は次のように意見を述べます。

仮に、遭難した異国人が教養ある人であるか、もしくは、
当時、俗人である平民に授(さず)けられた聖書の知識だけを、そのまま持っていた人だとしましょう。

このような場合に16世紀のスペイン人が、指導する範囲を旧約聖書の幾つかの主要な出来事に限定する、とはとても考えられません。
さらにまた、ディスペンセーション(経綸(けいりん),天啓法) 、十字架崇拝、マリア崇拝、および聖人崇拝には全く触れない、と言うこともまた考えられません。

そして同様にして、次のように考えることも不可能です。

ハワイ人の聞き手たち、すなわち、首長、聖職者カフナ、もしくは平民たちは、
聖書の知識の断片をたくさん保有しており、彼ら自身の民間伝承の中にふんだんに取り入れている。

それにもかかわらず、彼らの伝承に含まれている、あらゆる聖書の断片のことを、すっかり忘れてしまっている。」


(次回に続く)
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(ノート)
(N.1) スパニッシュ メイン (Spanish Main):
スパニッシュ メインは、大航海時代にカリブ海を囲うように伸びていた、大陸沿岸部のスペイン帝国領土の呼称です。具体的には、フロリダ半島から米国南岸、メキシコ東岸、中米諸国東岸、そして南米北岸におよびます。なお、メイン(Main)は "Mainland" の省略形ですから、「本土」を意味します。


(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 1. Legends Resemblng Old Testament History. By C. M. Hyde, p.15-30.
(*2) Abraham Fornander(1878): An Account of The Polynesian Race, its orgin and migrations and --, Vol.1. p.101-102.