043 神話 釣り人マウイ(7.トリックで獲物を横取り)

(前回からの続き)

それー、 釣り糸を引け!

マウイは必死の思いで、釣り糸を引き寄せ続けました(*1)。
そして一方では、全力でカヌーを漕(こ)いで前方に突進させます。

漁師たちは大声で叫びながら、お互いに励まし合っています。

トリックで獲物を横取り

そうこうするうちに、マウイのトリックにより、2人の釣り糸が絡(から)まってしまいます。
そして兄弟の釣り針にかかった大きな魚が、マウイのカヌーのすぐ脇まで近づいたのです。

さあー! いよいよ、いたずら好きマウイの本領発揮です。

マウイは自分の釣り針を、その大きな魚の口先にスルスルーッ と寄せました。
そしてほんの一瞬の間だけ、兄弟の釣り糸を緩ませたのです。

その瞬間、大きな魚は兄弟の釣り針から逃げて、空中に跳ね上がりました。
そして次の瞬間、その魚はひょいっと身をひっくり返すと、マウイのカヌーに入ってしまいました。

マウイはその大きな魚を高くかざして、仲間の漁師たちに見せました。
漁師たちは、若干疑いの目で見ながらも、獲物を手にしたマウイを祝福したのでした。

兄弟の無念を嘆く

その後、マウイの嘆く声があたりに響き渡りました。

「おー、我が兄弟よ! あなたの獲物は逃げてしまった。
なぜ、もっと引き続けなかったの? いい魚が掛(か)かっていたのに!

今頃はきっと、海の奥深くまで逃げてしまったに違いない。」

本当の所は、マウイがお得意のトリックで、兄弟の獲物を横取りしたのです。

しかし、兄弟たちに何が出来るというのでしょう?
何といっても、マウイは家族の中で一番賢かったのですから。

(次回に続く)
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(注記)
(*1) W.D.Westervelt(1910): Legends of Ma-ui, A Demi God of Polynesia, and of His Mother Hina; Ⅱ.Maui the Fisherman.