061 神話 マウイが火を発見(9. もう一つの伝説(3))

(前回からの続き)

母ヒナの教え

母ヒナはマウイに、『火を起こせるのは誰か?』を知る方法を、予(あらかじ)め教えておきました(*1)。

「追い求めてきた火の近くまで来ると、そこには鳥たちがいっぱいいるだろう。
しかし火の守護神は、その中の一羽だけだよ。


-- そう、それは小さくて若いアラエで、彼の名はアラエ・イキ(小さなアラエ)と言うのよ(*2)。
その彼一人だけが、火の起こし方を知っているんだよ。」

この母の教えを、マウイはしっかりと覚えていました。
そこで、火を起こしている鳥の群れを見つけると、いつもその小さなアラエを探しました。

しかし、間違えてしまったことも幾度かありました。
そしてまた、あと一歩という所まで来たのに、逃がしてしまったことも何回かありました。

鳥の大群のなかに飛び込む

こうしてマウイは逃げ回るアラエを追いながら、はるばるハワイ島からオアフ島までやって来たのです。


そして、ワイアナエで鳥たちの大群を見つけると、マウイはいきなりその中に飛び込んだのでした。
驚いた鳥たちは火を消そうとして、燃え上がる薪(たきぎ)をまき散らしました。

そして、あの若い方のアラエは、熾火(おきび)の中のバナナをひっつかむと、必死で逃げようとしています。
それを見たマウイは素早くアラエを捕まえると、その首(くび)をねじり始めたのです。

「私を殺さないでくれ!」

アラエは大声で叫びました。
「私を殺さないでくれ!」

さらに、マウイを脅(おど)すように言いました。
「もしも私を殺してしまえば、
あなたも、火の秘密を知ることが出来なくなってしまう。」

(次回に続く)
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(注記)
(*1) W.D.Westervelt(1910): Legends of Ma-ui, A Demi God of Polynesia, and of His Mother Hina; V. Maui Finding Fire.
(*2) 「アラエ・イキ(alae-iki)」の、"iki"は「小さい」を意味する形容詞です。「名は体を表す」と言う諺(ことわざ)通りの名前です。